現場のリアル|EUへの輸出

EUの輸入業者から「鋼材1トンあたりのCO2」を聞かれる

CBAM(炭素国境調整措置)は、EUに入る製品の製造時のCO2に費用をかける仕組みです。2026年1月に本番が始まりました。費用を払うEUの輸入業者は、輸出する側の工場に製品ごとの排出量を求めます。鉄鋼やアルミを出す会社が何を用意するのかを、欧州委員会の手引きでたどります。

現場のリアル #102.039tねじとナットの計算例の合計

受け取った会社が、まずやること

  1. EUに出している製品のCNコード(EUの品目番号)を、CBAMの対象の一覧と照らします。
  2. 2026年分の燃料、材料、生産量の記録を、製品の工程ごとにそろえます。
  3. EUで認定を受けた検証機関を早めに探します。年の終わりごろは、検証機関の手が足りなくなるおそれがあるからです。

輸入業者が、排出量の分の証書を買う

対象は、鉄鋼、アルミ、セメント、肥料、電力、水素の6分野です。年に50トンを超えて輸入する業者は、「認定申告者」の資格を申請します。認定申告者は、CBAMの申告をし、証書を買って納める輸入業者です。

証書の値段は、EUの排出量取引の落札価格の平均で決まります。2026年はCO2 1トンあたり、1〜3月分が75.36ユーロ、7〜9月分が82.32ユーロです。

いつ何が起きる
2026年1月本番が始まる
2026年9月EUで認定を受けた検証機関が、最初の検証を始める
2027年2月証書の購入が始まる
2027年9月30日2026年に輸入した分の申告の期限

EUは、域内の工場に排出枠(CO2を出してよい量の権利)の一部を無償で配っています。この無償の枠を2026年から2033年にかけて減らします。CBAMの負担は、それに合わせて増えます。2034年からは、排出量の全部に証書が要ります。

求められるのは、1トンあたりの排出量

輸入業者が工場に求める数字を、「埋め込み排出量」と呼びます。自社の工場で出た分に、材料の分を足したものです。材料の分とは、仕入れた鋼材などの対象品が、つくられたときに出した量です。

鉄鋼の製品は、本番では電気の分を数えません。ただし、鉄鉱石を焼き固めた焼結鉱は例外です。1年分の排出量を生産量で割り、1トンあたりの量を出します。

欧州委員会の鉄鋼の手引きには、鋼材を買ってねじとナットをつくる計算例があります。削りくずが出るため、製品より多くの鋼材を使います。

項目値(製品1トンあたり)
仕入れた鋼材の埋め込み排出量鋼材1トンあたり1.567トン
製品1トンに使う鋼材1.176トン
材料の分1.843トン
自社で使った天然ガスの分0.196トン
合計2.039トン

この例では、排出の大部分が材料の分です。そのため、鋼材の仕入れ先から、検証を受けた数字をもらう必要があります。

実際の数字は、検証を通らないと使えない

EUの外の工場には、CBAMで動く義務はありません。工場が数字を出さなければ、輸入業者はEUが決めた既定の値を使います。実際の数字を使えるのは、EUで認定を受けた検証機関が確かめた場合だけです。

1範囲を決める工場の境界と、CNコード(EUの品目番号)ごとの製造の工程を決める
2量を集める燃料と材料の使用量、生産量、仕入れた鋼材の量とその排出量を集める
3計画を書く測り方を「モニタリング計画」にまとめ、英語版をつくる
4検証を受ける検証機関が書類を見て、工場を訪れる
5渡す共通の様式の報告書を、EUの登録システムか直接で輸入業者に渡す
欧州委員会「Guidance No. 1」「Guidance No. 2」(2026年8月14日)から作成

報告書の様式は、英語の共通の様式を使うことが決まっています。EUの登録システムに登録すれば、数字を一度上げるだけで済みます。輸入業者に見せるのは要約だけなので、社外秘の部分も守れます。記録は6年以上残します。

日本の政府と産業界は、負担を心配している

経団連は2025年6月、経済産業省の担当者からCBAMの説明を受けました。日本政府は2024年10月、WTO(世界貿易機関)に提案を出しています。排出量の測り方について、国際的な指針をつくる提案です。

経団連は、算定の負担と、社外秘の排出量のデータの扱いを懸念しています。検証にEUで認定を受けた機関しか使えない点も、懸念の1つです。日本で払った炭素の価格は、CBAMの費用から差し引けるとされています。

この仕事に就きたい人へ

ねじとナットの計算例では、合計2.039トンのうち1.843トンが材料の分でした。輸出する工場は、鋼材の仕入れ先から検証を受けた数字をもらう必要があります。

EUの客先からの依頼は、まず輸出の部署に届きます。数字を作るのは、工場で環境やエネルギーを管理する部署です。外に頼まれるのは、モニタリング計画と英語の報告書づくり、検証の準備です。

燃料や電気の量を記録して国に報告してきた設備管理の人は、モニタリング計画の下書きを書けます。仕入れ先から数字を取り寄せてきた購買の人は、材料の分を固める場面で頼られます。

学生のうちに読むなら、欧州委員会の鉄鋼の手引きの計算例が手ごろです。埋め込み排出量と既定の値の違いを、そこで確かめられます。

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