取引先から、人権への取り組みを問う質問票が届くことがあります。工場で外国人が働いていれば、働く時間や契約、来日の費用の扱いが問われます。担当者が集める記録と、その背景にある国内外のルールを順に見ます。
日本政府は2022年9月、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を出しました。サプライチェーンは、原料から販売までの取引のつながりです。
農林水産省は2023年12月25日、これを主に食品の製造業向けに書き直した手引きを出しました。
この手引きは、取引先への説明の例を3つ挙げます。質問票への回答、行動規範(取引先に守ってほしい決まり)の確認への回答、訪問や監査への対応です。中小企業でも、取引先への説明には取り組むよう求めています。
質問票は、SAQ(セルフ・アセスメント質問票)とも呼ばれます。国連グローバル・コンパクトの日本の団体は、各社が共通で使えるSAQを日本語・英語・中国語で公開しています。
ILO(国際労働機関)は、強制労働を見分ける11の指標を示しています。身分証明書の取り上げ、借金での束縛、度を越えた残業などです。
農林水産省の手引きは、日本でも起きうる例を挙げています。パスポートを会社が預かること、寮からの外出を許可制にすること、断りにくい残業、賃金の未払いです。どれも、強制労働とみなされるおそれがあります。
| 業種 | 違反があった割合 | 多かった違反 |
|---|---|---|
| 食料品製造 | 73.6%(1,662のうち1,223) | 安全基準、労働時間、割増賃金 |
| 全業種 | 73.2%(11,355のうち8,310) | 安全基準、割増賃金 |
この表は、技能実習生を使う事業場への2024年の監督指導の結果です。違反が疑われる事業場を選んで調べた数です。実習生以外の働き手への違反も含みます。
54万円技能実習生が来日前に、母国の送出機関(働き手を日本へ送り出す機関)などに払った費用の平均(54万2,311円)。来日前に借金をした人は約55%
手引きは、費用のための借金が債務労働につながるおそれがあるとしています。債務労働は、借金を返すために辞められなくなる強制労働の一つです。
技能実習は、技能を母国に伝える国際貢献を目的にしてきました。代わりにできる育成就労は、人手が足りない分野で人を育て、確保することを目的にします。
2027年4月1日育成就労が始まる。すでに来日している技能実習生は、認定された計画のまま続けられる
送出機関が本人から取れる費用は、月給の2か月分までになります。超える分は、受け入れる会社か監理支援機関(受け入れる会社を支える、国の許可を受けた団体)が負担します。一定の条件のもと、本人の希望による転籍(職場を移ること)も認められます。
米国では2022年6月21日から、UFLPA(ウイグル強制労働防止法)による取り締まりが始まりました。中国の新疆ウイグル自治区で一部でも作られた品は、輸入できないものとみなされます。覆すには、輸入する会社が明白な証拠を出します。
EUでは2027年12月14日から、強制労働で作られた品をEUで売ることも、EUから輸出することもできなくなります。会社の大きさは問いません。
技能実習生が来日前に母国の送出機関へ払った費用は、平均で54万円でした。質問票では、この費用を誰が払ったかや、パスポートを誰が持っているかが問われます。
中小の工場で回答を受け持つのは、総務や人事、品質保証の担当者です。外に頼まれるのは、回答の支援と外国人の雇用の点検です。2027年4月の育成就労への切り替えに合わせ、受け入れの手順の見直しも加わります。
勤怠と36協定を突き合わせてきた労務管理の人には、最初の照合をそのまま任せられます。外国人の受け入れの実務に関わってきた人は、来日の費用の流れを本人と機関の両方から確かめられます。
学生なら、ILOの強制労働の指標を1つ選び、日本の工場ではどんな形で起こりうるかを話せるようにしておくとよいでしょう。