更新日 2026年11月1日
EUで売るすべての電池に、材料の調達から回収・リサイクルまでの決まりを定めた規則です。EV用などの電池には、2027年2月18日から電池パスポートが要ります。原材料の調達のデューデリジェンスは、2027年8月18日から始まります。
正式な名前は、規則(EU)2023/1542です。2023年8月17日に発効し、2024年2月18日から適用が始まりました。それまでの電池指令(2006/66/EC)を置き換えます。
規則は、加盟国の法律に移し替えずに、そのまま効力を持ちます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何が | 電池の有害物質、カーボンフットプリント、再生材、性能、表示、電池パスポート、原材料のデューデリジェンス、回収とリサイクル |
| 誰に | 電池をEUの市場に出す製造者、輸入業者、販売業者など。製品に組み込んだ電池も含む |
| いつから | 2024年2月18日から適用。要件ごとに開始日が異なり、2036年まで順に始まる |
| 改正 | 規則(EU)2025/1561で、デューデリジェンスの開始を2年延期 |
| 所管 | 欧州委員会。細かな方法は、委任規則と実施規則で定める |
委任規則と実施規則は、欧州委員会が本体の規則にもとづいて出す下位の法令です。電池規則では、算定の方法や様式の多くを、この下位の法令に任せています。下位の法令がまだ出ていない要件は、開始日も決まっていません。
規則は、電池を5つの区分に分けます(第3条)。形、重さ、化学の種類、用途は問いません。製品に組み込んだ電池も対象です(第1条第3項)。
| 区分 | 判定の基準 |
|---|---|
| ポータブル電池 | 密閉され、5kg以下。産業用に設計されたものでなく、ほかの3区分(EV用、LMT用、SLI)にも当たらない |
| LMT電池 | LMTは軽い乗り物のこと。密閉され、25kg以下で、電動の自転車やキックボードなど車輪のある乗り物を動かす電池。EV用電池は除く |
| SLI電池 | SLIは始動・照明・点火のこと。車や機械のエンジンの始動などに電力を送る電池 |
| EV用電池 | ハイブリッド車や電気自動車を動かす電池。二輪などのL区分の車では、25kgを超えるもの |
| 産業用電池 | 産業用に設計された電池と、ほかの区分に当たらない5kg超の電池。据え置き型の蓄電システムもここに入る |
1つの電池が2つ以上の区分に当たるときは、要件の最も厳しい区分として扱います(第1条第3項)。セルやモジュールを、そのまま最終の用途に売る場合もあります。その場合は電池とみなし、最も近い区分の要件をかけます(第1条第4項)。
多くの要件は、区分と容量で対象が決まります。カーボンフットプリント、再生材、電池パスポートでは、「2kWh(キロワット時)を超える産業用電池」がよく出てきます。
1 カーボンフットプリントの申告(第7条) カーボンフットプリントは、製品の一生で出る温室効果ガスの量です。二酸化炭素の量に直して示します。対象は、EV用電池、2kWh超の充電式の産業用電池、LMT電池です。
申告は、電池のモデルごと、製造工場ごとに作ります。値は、電池が使用期間に送り出す電力量1kWhあたりのCO2換算のキログラムで示します。申告書には、次の項目が入ります。
算定の範囲は、附属書Ⅱで定めています。原材料の採掘と前処理、電池の製造、販売先への輸送、回収とリサイクルの4段階です。使用の段階は、原則として算定に入れません。
附属書Ⅱは、電子部品と正極の材料を特に正確に特定するよう求めています。この2つが、値の主な要因になりうるからです。
カーボンフットプリントの要件は3段階で進みます。まず申告、次に性能の等級の表示、最後に上限値の順守です。上限値を超えるモデルは、市場に出せなくなります。
2 再生材の含有(第8条) 対象は、2kWh超の産業用電池、EV用電池、SLI電池です。産業用電池は、外部に蓄える方式だけのものを除きます。コバルト、鉛、リチウム、ニッケルを含むものに限ります。LMT電池は後から加わります。
最初は、再生材の割合を書類で示す義務です。廃棄物から回収した材料が、活物質(電気を生む材料)にどれだけ含まれるかを示します。モデルごと、年ごと、製造工場ごとに示します。その後、最低の割合を満たす義務に変わります。
| 材料 | 2031年8月18日から | 2036年8月18日から |
|---|---|---|
| コバルト | 16% | 26% |
| 鉛 | 85% | 85% |
| リチウム | 6% | 12% |
| ニッケル | 6% | 15% |
欧州委員会は、2028年12月31日までに、この目標を見直すべきかを評価します(第8条第5項)。回収した材料が手に入る見通しなどをもとにします。
3 原材料のデューデリジェンス(第47条〜第52条) デューデリジェンスは、問題がないかを事前に調べて防ぐ手続きです。電池規則では、原材料の調達、加工、取引にともなう社会と環境のリスクを調べます。
対象の原材料は、コバルト、天然黒鉛、リチウム、ニッケルと、その化合物です(附属書Ⅹ)。化合物は、活物質の製造に必要なものに限ります。リスクの区分は、環境・気候・健康、人権・労働、地域社会の3つです。
対象の事業者は、前々年度の純売上高が4,000万ユーロ以上の事業者です。グループに属する場合は、連結の売上高で判断します(第47条)。求められることは、次のとおりです。
通知機関は、加盟国が届け出た、適合の審査をする機関です。
4 電池パスポート(第77条・第78条) 電池パスポートは、電池1個ごとの電子の記録です。対象は、LMT電池、2kWh超の産業用電池、EV用電池です。2027年2月18日以後に市場に出すものから要ります。
情報は、見られる人によって4つに分かれます(附属書XIII)。
| 見られる人 | 主な情報 |
|---|---|
| 一般の人(モデルの情報) | ラベルの情報、材料の構成、カーボンフットプリント、調達の報告、再生材の割合、容量、電圧、想定の寿命など |
| 正当な利益のある人(モデルの情報) | 正極・負極・電解液の材料の詳しい構成、部品の番号、分解の手順、安全の対策 |
| 通知機関・当局・欧州委員会 | 要件を満たすことを示す試験の結果 |
| 正当な利益のある人(電池1個の情報) | 劣化の状態(SoH)、原品・再利用品などの区分、充放電の回数、事故などの記録 |
正当な利益のある人とは、修理、再製造、二次利用、リサイクルの事業者などです。誰がどこまで見られるかは、実施規則で決めます(第77条第9項)。
情報を正確で最新に保つ責任は、電池を市場に出した事業者にあります。ほかの事業者に書面で委ねることはできます。電池がリサイクルされると、パスポートはなくなります。
5 表示とQRコード(第13条) 表示の要件は、次の3つが順に始まります。
ラベルには、有害物質、消火剤、0.1%を超えて含む重要原材料も書きます(附属書Ⅵ)。QRコードの読み先は、区分で違います。LMT電池、2kWh超の産業用電池、EV用電池では、電池パスポートにつながります。そのほかの電池では、ラベルの情報やEU適合宣言などにつながります。
ラベルとQRコードは、電池に見やすく消えないように印刷するか刻みます。電池が小さいなどでできないときは、包装と添付の書類に付けます。
6 そのほかの主な要件 ほかにも次の要件があります。
リサイクルの事業者には、材料の回収の目標もあります(附属書XII)。2027年末までにリチウムは50%、コバルト、銅、鉛、ニッケルは90%です。2031年末までに、リチウムは80%、ほかの4つは95%です。
開始日の多くは、発効日(2023年8月17日)から数えた月数で決まっています。下の表の日付は、その月数から求めたものです。カーボンフットプリントなどは、委任規則や実施規則の発効から数えた日と比べ、遅いほうになります。
| 要件 | 開始日 |
|---|---|
| 規則の適用 | 2024年2月18日 |
| 適合の審査とCEマーク | 2024年8月18日 |
| 分別回収の記号 | 2025年8月18日 |
| 一般の情報のラベル | 2026年8月18日か、実施規則の発効の18か月後の遅いほう |
| 電池パスポート、QRコード、取り外しと交換 | 2027年2月18日 |
| デューデリジェンス | 2027年8月18日(改正前は2025年8月18日) |
| カーボンフットプリントの申告(EV用) | 2025年2月18日か、委任規則・実施規則の発効の12か月後の遅いほう |
| カーボンフットプリントの申告(充電式の産業用。外部に蓄える方式だけのものを除く) | 2026年2月18日か、同じく18か月後の遅いほう |
| カーボンフットプリントの申告(LMT) | 2028年8月18日か、同じく18か月後の遅いほう |
| 再生材の割合の書類 | 2028年8月18日か、委任規則の発効の24か月後の遅いほう |
| 再生材の最低の割合(第1段階) | 2031年8月18日 |
| 再生材の最低の割合(第2段階。LMTも対象) | 2036年8月18日 |
経過の扱いもあります。再利用、転用、再製造をした電池が、すでに一度市場に出ていたものだとします。その電池には、カーボンフットプリントと再生材の要件をかけません(第7条第5項、第8条第4項)。デューデリジェンスの章も同じです(第47条)。
欧州委員会の2026年9月のFAQは、2027年2月の時点について書いています。電池パスポートで、カーボンフットプリント、再生材、デューデリジェンスの情報はまだ求めないとしています。カーボンフットプリントの様式は、今後の実施規則で定めるとしています。
適合の審査の方式は、要件で違います(第17条)。カーボンフットプリントと再生材は、品質保証の審査(モジュールD1)か、1個ずつの検証(モジュールG)で確かめます。どちらも通知機関がかかわります。
電池パスポートのQRコードと固有の識別子は、ISO/IEC 15459の規格に合わせます(第77条第3項)。欧州委員会のFAQによると、デジタル製品パスポートの登録簿は2026年7月20日に動き始めました。登録は、電池を市場に出す事業者がします。
デューデリジェンスの書類は、方針のもとで作った最後の電池を市場に出してから10年保存します(第48条第3項)。
EUの紛争鉱物規則との関係 規則(EU)2017/821は、すず、タンタル、タングステン、金の調達を調べる規則です。電池規則のデューデリジェンスは、この規則の義務を妨げないと定めています(第47条)。紛争地域・高リスク地域の定義も、紛争鉱物規則のものを使います。
CSDDDとの関係 CSDDD(企業持続可能性デューデリジェンス指令。指令(EU)2024/1760)は、企業に人権と環境の調査を求めるEUの指令です。電池規則の第94条第4項は、CSDDDの採択の1年後に評価するよう求めています。電池のデューデリジェンスの義務を改める必要があるかどうかの評価です。
デジタル製品パスポートとの関係 エコデザインのEU法令も、製品ごとの電子の記録を求めます。電池パスポートは、それと完全につながる作りにします(第78条)。
化学物質の規制との関係 REACH規則は、EUの化学物質の登録と制限の規則です。電池の物質の制限は、REACH規則の附属書XVIIの制限に上乗せされます(第6条第1項)。使用済み自動車指令の制限も同じです。
規則の義務を負うのは、電池をEUの市場に出す事業者です。EUの外の部品・素材メーカーが、規則の義務を直接負うとは書かれていません。ただし、義務を果たすための情報の多くは、サプライチェーンの上流にあります。
欧州委員会のFAQは、輸入したセルやモジュールについて説明しています。EUで電池に組み立てる部品にすぎないなら、ふつうは完成した電池として扱いません。EUで電池を完成させた事業者が、製造者になります。
同じFAQは、電池を組み込んだ製品を輸入する場合も説明しています。電池パスポートの義務は、大きな機械や車両ではなく、完成した電池に付きます。責任は、ふつう輸入業者にあります。
上流に求められうる情報は、規則の条文から読み取れます。
| 要件 | 上流にかかわる記載 |
|---|---|
| デューデリジェンス | 原材料の名前と種類、仕入れ先の名前と住所、原産国、採掘からの取引、電池に含まれる量を記録する(第49条第2項)。仕入れ先の第三者の検証の報告は、下流に渡す |
| カーボンフットプリント | 原材料の採掘から電池の部品の製造までが、算定の範囲に入る(附属書Ⅱ)。正極の材料と電子部品は正確に特定する |
| 再生材 | 活物質のコバルト、リチウム、ニッケルのうち、回収した材料の割合を、モデル・年・工場ごとに示す(第8条) |
| 電池パスポート | 正極・負極・電解液の材料、部品の番号、分解の情報を載せる(附属書XIII) |
FAQは、結果の算定や裏付けのために、サプライチェーンのデータを集める必要がありうるとしています。ただし、集めたデータをすべてパスポートに載せる必要はないとしています。
デューデリジェンスの事業者は、得た情報を、すぐ下流の買い手に渡します(第52条第2項)。営業の秘密には配慮します。
Q 売上高が4,000万ユーロ未満なら、デューデリジェンスは要りませんか。
A 単独の売上高だけでは決まりません。グループに属するなら、連結の売上高が4,000万ユーロを超えるかで判断します(第47条)。
Q 電池に4つの原材料が入っていない場合はどうなりますか。
A 欧州委員会のFAQは、コバルト、天然黒鉛、リチウム、ニッケルのどれも含まない電池について答えています。その電池では、パスポートのデューデリジェンスの報告は要らないとしています。
Q 2027年2月から、パスポートの全項目を埋める必要がありますか。
A FAQは、必要ないとしています。電池の種類や技術上の関係で、当てはまる項目だけのものがあります。必須、任意、条件付きの項目は、欧州委員会の手引きの資料に並んでいます。
Q パスポートの作成を外部の業者に任せれば、責任も移りますか。
A 移りません。書面で委ねることはできます(第77条第4項)。FAQは、法律上の責任は市場に出す事業者に残るとしています。
Q 使用中のデータの欄は、市場に出す時点で空でもよいですか。
A FAQは、使用の中で生まれるデータの欄は、最初に市場に出す時点では空でもよいとしています。
| 時期 | 内容 | 状況 |
|---|---|---|
| 2026年10月〜11月 | 正当な利益のある人を定める実施規則の案の意見募集 | 欧州委員会のFAQで見込みとして記載 |
| 2026年11月上旬 | 電池規則の簡素化の改正案について、欧州議会の環境委員会が採決 | 欧州議会の予定。案は審議中 |
| 2027年2月18日 | 電池パスポート、QRコード、取り外しと交換の要件 | 決定 |
| 2027年8月18日 | デューデリジェンスの義務 | 決定(規則(EU)2025/1561) |
| 2027年12月31日 | リサイクルでの材料の回収の目標(第1段階) | 決定 |
| 2028年8月18日以後 | 再生材の割合の書類。委任規則の発効の24か月後のほうが遅ければ、その日 | 開始日は委任規則の発効の時期による |
| 2028年12月31日まで | 再生材の目標の見直しの評価 | 決定 |
| 2030年12月31日まで | カーボンフットプリントの要件をポータブル電池に広げるかの評価 | 決定 |
| 2031年8月18日 | 再生材の最低の割合(第1段階) | 決定。見直しの可能性あり |
| 未定 | EV用電池のカーボンフットプリントの申告の開始日 | 委任規則と実施規則の発効による |
| 未定 | 一般の情報のラベルの開始日 | 実施規則の発効による |
簡素化の改正案は、2025年12月10日に欧州委員会が出しました(COM(2025) 981)。欧州議会の案内のページによると、次の4点が含まれます。
2026年9月20日の時点で、案は採択されていません。中身と時期は、今後の審議で変わる可能性があります。
デューデリジェンスの手引き(ガイドライン)の公表の期限は、改正で2026年7月に延びました。公表されたかどうかは、この解説では確かめられていません。