更新日 2026年11月1日

制度の解説|削減目標

SBTiの企業ネットゼロ基準 第2版

SBTiは2026年6月11日に、企業ネットゼロ基準の第2版を公表しました。第2版での目標の提出は2027年2月1日に始まります。2028年2月1日からは、新しく出す目標がすべて第2版の対象になります。

制度の解説SBTi

概要

SBTiは、企業の温室効果ガスの削減目標について基準を作る国際団体です。イングランドとウェールズの慈善団体として登録されています。SBTは、パリ協定と整合する削減目標を指します。

企業ネットゼロ基準(CNZS)は、企業が削減目標を立てるときの基準です。第2版(V2.0)は全面改訂の版です。これまでの短期目標の基準(第5.3版)と、ネットゼロ基準の第1.3.1版を一つにまとめています。

項目内容
何が削減目標の立て方、実行の方法、進み具合の報告と評価を定める基準
公表2026年6月11日(改訂履歴の発効日は2027年2月1日)
いつから2027年2月1日に第2版での審査を開始。2028年2月1日から新しい提出はすべて第2版
誰にSBTiの審査を受けて目標を認めてもらう企業。金融機関の投融資の排出には別の基準がある
審査する組織SBTi Services(SBTiの完全子会社)
法令との関係法令ではない任意の基準。基準への適合は法規制の順守の代わりにならないと、免責事項に書かれている

SBTiは、日本語の翻訳版も公開しています。翻訳版は情報提供のためのもので、迷ったときは英語版が正式です。

対象(企業カテゴリーの判定)

第2版は、企業を規模と所在地でカテゴリーAとカテゴリーBに分けます。第1版の「一般企業・中小企業・金融機関」の区分に代わるものです。

条件地域区分
純売上高4億5,000万ユーロ以上、または従業員1,000人以上(どちらか一つ)すべての国A
Scope1・2の排出が1万tCO2e以上。または、総資産2,500万ユーロ以上、純売上高5,000万ユーロ以上、従業員250人以上のうち二つ以上高所得国A
上のどれにも当たらないすべての国B

Scope1は自社での燃料の燃焼などによる直接排出です。Scope2は買った電気や熱の使用による排出です。tCO2eは、温室効果ガスの量をCO2に換算したトン数です。

判定の決まりは次のとおりです。

  1. 連結で判定 グループ会社は、グループ全体の連結の数字で判定します。目標を子会社の単位で立てる場合も同じです。
  2. 2期の平均 直近2期の財務諸表などの平均を使います。
  3. ユーロ換算 ユーロ以外で決算する会社は、財務諸表の公表日のロイターの為替レートで換算します。
  4. 地域 最終親会社の設立地で決めます。世界銀行の所得分類を使います。
  5. 時点 登録時に判定し、目標審査のときに確かめます。区分は5年の目標サイクルの間変わりません。

従業員数は、常勤に換算した年平均の人数(FTE)です。化石燃料の探査や採掘、生産に直接関わる企業は、当面は目標の審査を受けられません。化石燃料の販売や関連サービスからの収入が売上の50%未満の企業などは例外です。

第1版からの主な変更

比べる相手は、第1.3.1版と短期目標の基準(第5.3版)です。SBTi Servicesの移行ガイドの対照表をもとに整理しました。

項目第1.3.1版まで第2版
企業の区分一般企業、中小企業、金融機関カテゴリーAとB
基準年2015年以降の年から選ぶデータがそろう直近の年。サイクルごとに新しくする
短期目標の期間提出から5〜10年5年。初回は5年より短くてもよい
Scope1・2合わせて95%以上を対象にできるScope1とScope2を分け、それぞれ100%を対象
算定から外せる量Scope1・2とScope3で、それぞれ5%まで外せない
Scope3の目標全体の40%以上なら必須。短期は67%以上、長期は90%以上を対象Aは必須。5%以上のカテゴリーをすべて対象。条件つきで除外できる
第三者保証求めていないAは基準年の排出などに限定的保証が必要
移行計画明確な義務はない全社に作成の義務。Aは開示も必要
進み具合の評価正式な仕組みはない目標サイクルの終わりに評価を受ける
バリューチェーン外の貢献BVCMとして推奨任意の認定制度(OER)に変更

BVCMは、バリューチェーンの外で行う排出削減への投資のことです。OERは「継続的排出に対する責任」の略称で、まだ出している排出への貢献を認める仕組みです。

目標は「最善の努力」で追うものと明記されました。企業は使える手段をすべて使い、達成を妨げる要因と対応を毎年報告します。

近い将来の目標と長期目標

第2版の短期目標は5年の目標です。長期目標は、遅くとも2050年までに排出を残余の水準まで減らす目標です。残余排出は、削り切れずに残る排出を指します。

目標Scope1Scope2Scope3
短期目標(5年)全社に必須全社に必須Aに必須
長期目標(2050年まで)目標の立て方による任意任意
ネットゼロ目標任意。立てる場合は3つのScopeすべてに短期と長期の目標を立て、残余排出を炭素除去で相殺する

短期目標の期間は、提出時点で最新の報告期間の初めから5年です。次のサイクルは、前の目標年の翌年から5年です。目標の水準は、物理的な排出の算定で決めます。証書などを差し引かない、実際の排出の算定です。Scope2はロケーション基準で算定します。

ロケーション基準は、地域の電力網の平均の排出係数で計算する方法です。

Scope短期目標の選び方
Scope1(1) 2050年まで直線で減らす総量目標、(2) 業種別の原単位目標、(3) 設備の入れ替え計画による資産移行目標
Scope2(1) 低炭素電力の割合を高める目標、(2) 総量の削減目標

Scope1で原単位か資産移行の目標を選んだ場合は、長期目標も立てます。この場合は、目標審査の時点で移行計画を公表します。

低炭素電力には、再生可能エネルギー、原子力、CO2の回収・貯留を備えた発電が含まれます。電力の契約は、運転開始から15年以内の発電所のものが認められます。既存の契約は、契約期間中は新しい要件の対象外です。

Aの企業は、目標期間の電力使用量の見通しを出します。年平均の伸びが20%を超える見込みなら、Scope2の排出量の目標が必要です。

Scope3の扱い

Scope3は、自社の外のバリューチェーンで出る排出です。GHGプロトコル(排出量の算定の国際基準)の15カテゴリーのうち、1〜14が企業ネットゼロ基準の対象です。カテゴリー15(投融資)は、金融機関向けの基準が扱います。

短期目標は、Scope3全体の5%以上を占めるカテゴリーをすべて対象にします。次の排出は、条件を満たせば目標から外せます。

カテゴリー外せる排出
1・2(購入品、資本財)中古品の製造までの排出
3(燃料・エネルギー関連)Scope1・2の目標でエネルギー使用を減らして抑える場合
7(通勤)カテゴリー全体
8(借りている資産)運用の管理権がなく、エネルギーの使い方に影響を与える手段もない場合
9(下流の輸送)燃料、経路、輸送手段を左右する契約上の手段がない場合
10(販売した製品の加工)加工の工程が分からないか、加工する会社と契約がない場合
14(フランチャイズ)加盟店の施設やエネルギー使用に影響を与えられない場合

外した場合は、理由、外した量と割合、減らすための取組みを報告します。目標の立て方は、次の3つから選びます。

  1. 全体の総量目標 Scope3の排出を直線で減らします。2050年以前のネットゼロの年に、残余排出をおよそ10%以下にする道筋です。
  2. 取引先の整合目標 直接取引する仕入れ先や顧客のうち、移行中またはネットゼロに整合する先の割合を高めます。
  3. カテゴリーや活動ごとの目標 鉄鋼やセメントなどの調達、輸送、販売した製品の使用など、排出が集中する部分に絞って立てます。

3つ目では、低炭素の素材の調達割合や、低炭素の製品の販売割合を目標にできます。販売した製品の使用(カテゴリー11)にどの方法も使えない場合は、例外の申請ができます。その場合は長期目標と削減の計画が必要です。

Aの企業は、バリューチェーンにある排出集約型活動(EIA)を特定し、量を算定します。EIAは、基準の附属書に列挙された排出の多い活動です。

求められること(目標づくり以外)

  1. 経営の承認 取締役会など最高の意思決定機関が目標に責任を負い、実行を監督します。
  2. 移行計画 目標を実行する取組み、前提、外部への依存を書きます。Aの企業は、目標審査の完了から15か月以内に開示します。
  3. 基準年の算定 京都議定書の7種類のガスを含め、GHGプロトコルに沿って算定します。
  4. 第三者保証 Aの企業は、基準年のScope1〜3の排出などに、少なくとも限定的保証を受けます。Bの企業には推奨です。
  5. 実行の順序 自社とバリューチェーンでの直接の削減を優先します。次に、電力網など共有の仕組み(活動プール)での取組み、最後に業界単位の取組みです。
  6. 毎年の報告 目標ごとの進み具合、取った行動、進捗を妨げる要因を公表します。
  7. 電力の時間ごとの一致 年1万MWh(10GWh)以上の電力を使う地域では、低炭素電力と時間単位で一致した割合を報告します。

証書やクレジットなどの市場手段は、物理的な排出の算定とは分けて報告します。限定的保証は、合理的保証より手続きの範囲が狭い保証です。

適用の時期と経過措置

日付できごと
2026年4月14日第1.3.1版を公表。短期目標の総量削減の計算を、新しい基準年に対応させた
2026年6月11日第2版を公表
2026年10月1日SBTi Servicesが第2版の審査用資料を公表する日(移行ガイドの記載)
2027年1月31日短期目標とネットゼロ目標を別々に約束(コミット)できる最後の日
2027年2月1日第2版での審査を開始。第1.3.1版も引き続き使える
2028年1月31日第1.3.1版で提出できる最後の日
2028年2月1日新しい提出はすべて第2版

環境省の資料は、第1.3.1版の改定がSBTiのホームページで2026年4月29日に公表されたとしています。この改定で、2050年のネットゼロと年4.2%の最低削減率は維持されました。従来の方法で認められた目標も有効です。

すでに認められた短期目標は、目標期間の終わりまで有効です。目標年が2030年以降の企業は、今の目標を保つよう勧められています。次のサイクル(2030〜35年)の目標は、2028年から第2版で立てます。

コミット中で、まだ目標が認められていない企業の扱いは次のとおりです。

コミットの期限使える版
2027年1月31日より前第1.3.1版
2027年2月1日〜2028年1月31日第1.3.1版か第2版
2028年1月31日より後第2版

第2版の一部は、経過措置として第1版の利用者にも開かれます。新しい総量削減の計算、最善の努力の考え方、企業カテゴリーの利用などです。Aの基準に届かない企業は、第1版のもとで中小企業の扱いを申し出ることができます。

審査の手続きと期限

第2版は、5年ごとのサイクルで審査と評価をくり返す仕組みです。SBTiの日本語版は、この審査を「目標審査」と訳しています。

1登録SBTiに登録し、目標を立てられるか、カテゴリーAかBかを確かめる
2コミット(任意)目標を立てる意思を公表する
3目標審査認定された審査機関が、基準に合うかを審査する
4毎年の報告審査の次の報告から、進み具合を毎年公表する。抜き取りの確認を受けることがある
5サイクル終了時の評価目標期間が終わってから12か月以内に終える。Aは第三者保証を受けた進捗評価を出す
6次の目標審査前の目標期間の終わりの24か月前から12か月後までに提出する
SBTi企業ネットゼロ基準 第2版 B.4節、SBTi Services「第2版への移行ガイド」から作成

SBTiも審査機関も、企業の排出量のデータを自ら検証はしません。データの正確さは、企業と保証の提供者が責任を持ちます。

目標の情報は、審査の次の報告で公表します。SBTiのダッシュボードへの掲載にも、審査から6か月以内に同意します。

第1版で目標を持つ企業の再審査の期限は、次のとおりです。

きっかけ期限
目標年に達した目標年の翌年の年末(例:2026年が目標年なら2027年12月31日)
5年ごとの見直し見直しは基準日から6か月以内。新しい目標が要るなら12か月以内に提出
2027年2月より前に第2版で出したいSBTi Servicesに延長を申し込める

日本企業の認定数

環境省の資料は、SBTiの公開データをもとに日本の参加企業数をまとめています。

時点日本世界
2026年3月31日:認定を受けた企業2,296社10,494社
2026年3月31日:コミット中の企業55社2,362社
2026年8月12日:参加企業(認定とコミットの合計)2,580社13,969社

2026年8月時点で、日本は世界の参加企業の約18%を占め、国別で最も多くなっています。コミットとは、2年以内に認定を受けると宣言することです。

SBTiの目標ダッシュボードは、2026年11月1日に開いた時点で、世界の認定企業を12,256社と表示していました。表示には基準日がなく、毎週木曜日に更新されると書かれています。国別の数は、画面の表示からは確かめられませんでした。

ほかの制度との関係

制度第2版との関係
GHGプロトコル算定の土台。改訂作業が進んでいる間はSBTiが暫定の指針を出し、経過措置を検討する
ISOのネットゼロ規格SBTiは補い合う関係と説明。両方の認証を受けられる可能性に触れている
EUのESRS E1-1、TPT移行計画を作るときの参考として推奨。ESRSはEUのサステナビリティ開示の基準
金融機関向けネットゼロ基準投融資の排出(カテゴリー15)を扱う別の基準
業種別の基準第2版に合わせて改訂中。移行期間は今の業種別の基準を使う

TPTは、英国の移行計画タスクフォースです。第2版は、規制が求める開示を満たすことを企業の責任としています。

実務で迷いやすい点

問 第1版で認められた目標は、第2版の開始で無効になりますか。

答 なりません。目標期間の終わりまで有効です。次のサイクルから第2版で目標を立てます。

問 第1版で提出できるのは「2027年末まで」ですか。

答 SBTiのFAQと基準の要約は「2027年末まで」と書いています。SBTi Servicesの移行ガイドは、締切を2028年1月31日としています。2028年2月1日以降の提出は第2版です。

問 日本の子会社が自社だけで目標を立てる場合、区分はどう決まりますか。

答 グループ全体の連結の数字で判定します。ただし、複合企業の中で別の事業として運営する子会社は、別の会社とみなされることがあります。

問 Scope1とScope2をまとめた目標は立てられますか。

答 Aの企業はScope1、2、3を別々に立てます。Bの企業もScope1と2を分けます。伝えるために合算して示すことはできますが、評価は目標ごとに行います。

問 目標を達成できなかったら、SBTiから外されますか。

答 目標は最善の努力で追うものとされています。使える手段を使い、妨げる要因と対応を報告すれば、枠組みに残れます。2回目以降のサイクルの最低進捗基準は、今後の文書で定められます。

問 クレジットで目標を達成できますか。

答 削減の主張は、物理的な排出の算定の変化にもとづきます。業界単位の取組みなどは別に報告し、システムへの貢献として主張します。

今後の予定

時期予定状況
2026年10〜12月追加の目標設定の方法を確定FAQに見込みとして記載
2026年末Scope1の市場手段、活動プールの取組みの実施ガイダンスFAQに見込みとして記載
2026年後半OERの詳細の公表公表を確かめられていない
2027年2月1日第2版での審査を開始決まっている
2027年初め〜年末業種別の手法の案を作り、年内に確定SBTiの計画
2027年OERの開始。第1版の目標を持つ企業も参加できるSBTiの計画
2028年2月1日新しい提出はすべて第2版決まっている
2035年から継続排出の1%以上に相当する炭素除去を支える基準に条文あり。移行ガイドはカテゴリーAの要件と説明
未定最低進捗基準、アシュアランス・マニュアル、主張に関する方針公表日は示されていない

2035年からの要件では、対象とする量をネットゼロの年に向けて直線で増やします。ネットゼロの年には、残余排出の100%を炭素除去で相殺します。