更新日 2026年11月1日
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)は、EUの会社にサステナビリティ情報の報告を求める法律です。2026年3月に見直しの指令が発効し、対象は従業員1,000人超かつ売上4.5億ユーロ超の会社に絞られました。報告に使うESRS(欧州サステナビリティ報告基準)も、項目を減らした改訂版が採択されています。対象の条件、求められること、日本企業への関係を、EUの公式文書でたどります。
CSRDは2022年の指令(EU)2022/2464です。EUの会計指令(2013/34/EU)を改め、年次報告書の中でサステナビリティ情報を報告させます。報告にはESRS(欧州サステナビリティ報告基準)を使います。
2025年2月、欧州委員会は報告の負担を減らす一連の法案を出しました。これがオムニバス(簡素化パッケージ)です。CSRDを改める部分は、指令(EU)2026/470として成立しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何が | CSRDの対象の縮小、取引先への情報要求の上限、保証の簡素化など |
| いつ成立 | 2026年2月24日に採択、2月26日にEU官報に掲載、3月18日に発効 |
| いつから | 2027年1月1日以後に始まる年度から、新しい対象の基準で報告 |
| 誰に | 純売上高4.5億ユーロ超かつ平均従業員1,000人超のEUの会社とグループ |
| 域外の企業 | EU域内の売上が大きい域外の企業グループは、2028年度から別の基準で報告 |
加盟国は、2027年3月19日までに自国の法律を改めます。国ごとの細かい定めは、その法律で決まります。
EUの会社は、決算日に2つの基準をどちらも超えると対象です。純売上高が4.5億ユーロを超え、その年度の平均従業員数が1,000人を超えることです。親会社は、グループ全体の連結の数字で同じ判定をします。
| 区分 | 条件 | 最初の年度 |
|---|---|---|
| EUの会社(単体) | 純売上高4.5億ユーロ超、かつ平均従業員1,000人超 | 2027年1月1日以後に始まる年度 |
| EUの親会社(連結) | グループの連結で、純売上高4.5億ユーロ超、かつ平均従業員1,000人超 | 同上 |
| EU域外の企業グループ | EU域内の純売上高が2年続けて4.5億ユーロ超で、前の年度の純売上高が2億ユーロ超のEU子会社か支店がある | 2028年度(報告は2029年) |
| EUの上場中小企業 | 報告の義務の対象から外れた | ― |
| 金融持株会社 | 子会社どうしの事業が独立していれば、報告しないことを選べる | ― |
域外の企業グループの判定では、EU域内の売上をグループ単位で見ます。グループの単位がない場合は、その会社単体の数字で見ます。支店で判定するのは、条件に当たるEU子会社がない場合だけです。
欧州委員会は、物価の上昇に合わせて、売上の基準を少なくとも5年ごとに見直します。
対象の会社は、年次報告書(マネジメントレポート)の中で、2つの情報を報告します。会社が人や環境に与える影響と、サステナビリティの問題が会社の業績や財政状態に与える影響です。
| 項目 | 求められること |
|---|---|
| 報告の基準 | ESRSに沿って報告する。重要でない情報は、原則として報告しない |
| 保証 | 監査人などが「限定的保証」で意見を出す。限定的保証は、合理的保証より手続きが少ない保証 |
| 保証の基準 | 欧州委員会が2027年7月1日までに定める。合理的保証の基準を定める義務はなくなった |
| 電子タグ | 報告に電子タグを付ける。タグ付けのルールができるまでは不要 |
| 取引先の情報 | 最初の3年は、集められなかった理由と今後の計画を説明すればよい |
| 省略できる情報 | 商業上の立場を著しく損なう情報、営業秘密、秘密指定の情報などは、条件付きで省略できる |
| 買収と売却 | 年度中に買収や合併をした会社、グループを出た子会社の情報を、連結の報告から外せる |
| 業種別の基準 | 業種別の基準を作る規定は削除された |
省略の制度を使ったときは、使ったことを開示します。省略を続けてよいかは、報告のたびに見直します。
買収や売却で報告から外した場合も、子会社に起きた大きな出来事は記載します。グループの影響やリスクに関わる出来事が対象です。
見直し後のCSRDは、取引先の中小の会社を守る仕組みを設けました。前の年度の平均従業員数が1,000人以下の取引先を「保護対象の会社」と呼びます。
| ルール | 内容 |
|---|---|
| 上限 | 任意の報告基準に書かれた範囲を超える情報は、求めることができない |
| 断る権利 | 保護対象の会社は、上限を超える情報の提供を断れる |
| 契約 | 上限を超える情報を求める契約の条項は、拘束力を持たない |
| 知らせる義務 | 上限を超えて頼むときは、どこが超えているかと、断れることを伝える |
| 自己申告 | 1,000人以下かどうかは、取引先の自己申告で判断してよい |
任意の報告基準は、中小企業向けの任意の基準(VSME)の勧告をもとに作ります。欧州委員会は2026年7月3日、この基準を定める委任規則を採択しました。
この上限は、CSRDの報告のための依頼にだけかかります。人権や環境のデューデリジェンス(取引先まで含めた調査と対策)のための依頼には影響しません。
欧州委員会は2026年7月3日、改訂ESRSの委任規則C(2026) 5010を採択しました。2023年に定めたESRSの本文を、まるごと差し替える形です。
原案は、EFRAG(欧州委員会に報告基準を助言する団体)が2025年12月2日に提出しました。この原案は、義務の開示項目を61%減らしています。欧州委員会は、原案にいくつかの修正を加えて採択しました。
| 論点 | 改訂後の扱い |
|---|---|
| 重要性 | 重要でない情報は、決められた場合を除き「報告しない」と定めた |
| 重要性の評価 | 上から絞る方法を使えば、多くの場合、影響やリスクを1つずつ評価しなくてよい |
| 適正な表示 | 報告全体にかかり、項目ごとにはかからないと明記した |
| 財務への影響の見込み | 見積もりの更新は誤りに当たらない。開示の猶予を1年延ばした |
| 温室効果ガス | 集計の範囲を、財務支配か経営支配のどちらかで決められる |
| 移行計画 | 目標が1.5℃の目標と合わない場合は、そのことを示す |
| マイクロプラスチック | 製品として作るものに限り、劣化してできるものは対象外 |
| 高懸念物質 | 含む製品を使う会社には、開示の猶予を1年設けた |
| 人権の事案 | 確認された事案だけを報告する |
| 資産運用 | 顧客から預かって運用する投資の情報は、開示しなくてよい |
EFRAGの費用の分析では、報告の費用は5年間の平均で34%減ります。ただしこれはEFRAGの原案での見積もりで、採択された規則での数字ではありません。
会計指令の第40a条は、EU域外の企業グループのサステナビリティ報告を定めています。報告に使う基準の案を、EFRAGが2026年7月23日に公表しました。名前は条文の番号からとったESRS-40aです。意見募集は2026年10月31日に締め切られました。
報告書を公表するのは、EUの子会社か支店です。中身は、域外の最終親会社のグループ全体についての情報です。条件に当たる子会社や支店は、親会社が用意した報告書を公表します。
| 論点 | 案の内容 |
|---|---|
| 報告の対象 | 会社が人や環境に与える影響だけ。リスクと機会の開示は外した |
| 基準の構成 | 改訂ESRSと同じ12本(共通2本、テーマ別10本) |
| 範囲の選択 | 気候以外のテーマは、条件付きでEUに関わる影響だけに絞れる |
| 削った項目 | EUタクソノミー(環境に良い事業の分類)に関する項目 |
| 保証 | 報告書に保証の意見を付ける |
| 猶予 | 生物多様性や取引先の労働者などの開示は、最初の2年は省ける |
EUに関わる影響とは、EUで売られる製品やサービスによる影響と、EUでの事業による影響です。絞れるのは、EUの分を意味のある形で切り分けられる場合だけです。
EFRAGの理事会は、この「混合方式」に懸念を示したうえで、案の公表を承認しました。欧州委員会の求めに沿って入れた方式だと説明しています。ESRS-40aはまだ案で、最終の内容は決まっていません。
| 対象 | 2026年度まで | 2027年度から |
|---|---|---|
| 2024年度から報告している会社 | 旧ESRSで報告を続ける。2025・2026年度は、2024年度より項目を増やさなくてよい | 新しい基準を超えれば続けて報告。超えなければ対象外 |
| 基準に届かなくなる会社 | 2025・2026年度の報告を、加盟国が免除できる | 対象外 |
| 新しく対象になる会社 | 報告の義務はない | 2027年1月1日以後に始まる年度から報告 |
| EU域外の企業グループ | 報告の義務はない | 2028年度から報告(2029年に公表) |
改訂ESRSは、2027年1月1日以後に始まる年度から義務になります。2026年中に始まる年度は、旧ESRSと改訂ESRSのどちらかを選べます。旧ESRSを選んだ場合も、改訂版の負担軽減の一部を使えます。どの版を使ったかは、報告の中に明記します。
旧ESRSで使える負担軽減には、上から絞る重要性の評価や、取引先の範囲を一部に限る報告などがあります。
改訂ESRSの委任規則は、採択日から4か月と1週間後に発効すると定めています。採択日の2026年7月3日から数えると、2026年11月10日です。欧州議会と理事会は、通知から2か月の間に異議を出せます。この期間は2か月延ばせます。
日本企業がCSRDに関わる道は、主に3つあります。
| 関わり方 | 条件 | 時期 |
|---|---|---|
| EU子会社が自ら報告 | 子会社の単体か、EUの中間持株会社の連結で、4.5億ユーロ超かつ1,000人超 | 2027年度から |
| グループ全体の報告をEUで公表 | EU域内の売上が2年続けて4.5億ユーロ超で、2億ユーロ超のEU子会社か支店がある | 2028年度から |
| 取引先として情報を求められる | CSRDの対象の会社と取引がある | 対象の会社の報告に合わせて |
保護対象の会社の定義には、所在地の条件が書かれていません。従業員1,000人以下の日本の取引先も、文面上はこの定義に当たります。
会計指令には、親会社の報告に含まれる子会社を免除する規定もあります(第19a条9項、第29a条8項)。見直しの指令は、この免除を公益事業体にも広げました。公益事業体は、会計指令が公益性の高い会社として定めるものです。免除の細かい条件は、本ページの出典では確かめていません。
EU子会社の報告の細部は、子会社がある国の法律で決まります。複数の国に子会社がある場合は、国ごとの法律を確かめる必要があります。
SSBJ基準は、日本のサステナビリティ開示の基準で、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が作りました。SSBJは、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の基準との整合を基礎にしたとしています。
| 比べる点 | ESRS | SSBJ基準 |
|---|---|---|
| 開示する内容 | 人や環境への影響と、会社へのリスクと機会 | サステナビリティ関連のリスクと機会 |
| 主な読み手 | 投資家に加え、取引先や労働組合、NGOなど | 投資家、融資者などの債権者 |
| 日本での義務 | ― | 東証プライムで平均時価総額1兆円以上の会社。2028年3月期から |
平均時価総額3兆円以上の会社は、1年早い2027年3月期から適用されます。
ESRSとISSB基準の関係について、EFRAGとISSBは2024年5月2日に相互運用の手引きを出しました。欧州委員会は、ESRSで報告する会社は少しの追加の手間で国際基準も満たせると述べています。改訂ESRSでも、温室効果ガスの集計範囲を国際基準に寄せています。
ESRS-40aの案は、親会社がESRSか「同等の基準」で報告すれば、EUの子会社は別に報告しなくてよいとしています。同等かどうかは、EUの別の法律に基づく決定で判断します。SSBJ基準を同等と認めた決定は、開いた資料の中にはありません。
CSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)も、同じオムニバスの指令で改められました。対象は従業員5,000人超かつ純売上高15億ユーロ超の会社です。加盟国の法律の期限は2028年7月26日です。
Q. 売上は4.5億ユーロを超え、従業員は900人です。対象になりますか。
A. 条文は、純売上高と平均従業員数の両方が基準を超えることを求めています。従業員が1,000人を超えなければ、その会社は単体では対象に入りません。EUの親会社のグループが連結で両方を超える場合は、その親会社が報告します。
Q. 2024年度から報告していて、新しい基準に届きません。2025年度と2026年度はどうなりますか。
A. 加盟国は、2025年度と2026年度の報告を免除できます。免除するかどうかは、加盟国の法律によります。2027年度以後は対象外です。
Q. 2026年度の報告は、どちらのESRSを使いますか。
A. 旧ESRSと改訂ESRSのどちらかを選べます。旧ESRSに、改訂版の負担軽減の一部を組み合わせることもできます。使った版は、報告の中に明記します。
Q. EUの取引先から、細かい排出量のデータを求められました。断れますか。
A. 前の年度の平均従業員数が1,000人以下なら、任意の報告基準を超える部分を断れます。ただし、デューデリジェンスのための依頼は、この上限の対象外です。
Q. 日本の親会社がグループの情報を出さない場合、EU子会社はどうしますか。
A. ESRS-40aの案では、子会社は親会社に必要な情報を求めます。得られなければ、手元にある情報で報告書を作り、足りないことを明記します。
Q. 業種別のESRSは、いつ出ますか。
A. 業種別の基準を作る規定は、見直しの指令で削除されました。指令の前文は、欧州委員会が業種別の手引きを出す可能性に触れています。
| 予定 | 状況 |
|---|---|
| 改訂ESRSの発効 | 委任規則の定めから計算すると2026年11月10日。官報に載った日付は、開いた資料では未確認 |
| 加盟国の法律の改正 | 期限は2027年3月19日。国ごとの内容は国によって異なる |
| ESRS-40aの最終化 | EFRAGの助言は2027年1月の予定。欧州委員会が採択する時期は未定 |
| SSBJ基準の同等性 | 同等と認める決定は、開いた資料の中にはない。未定 |
| 限定的保証の基準 | 欧州委員会が2027年7月1日までに定める |
| 指令の見直し | 欧州委員会が2029年4月30日までに報告する。対象の拡大の検討は2031年4月30日まで |
2031年の検討では、基準を下回る大会社と、EUに子会社も支店もない域外の会社を、対象に加えるかを調べます。