更新日 2026年11月1日
CSDDD(企業持続可能性デューデリジェンス指令)は、EUの大企業に人権と環境への悪影響の調査と対策を求める法律です。2026年3月に見直しの指令が発効しました。対象は従業員5,000人超かつ売上15億ユーロ超の会社に絞られ、気候の移行計画の義務はなくなりました。対象の条件、求められること、日本企業と取引先への関係を、
CSDDDは指令(EU)2024/1760で、2024年7月25日に発効しました。会社に、自社と子会社、取引先の事業で起きる悪影響への対応を求めます。悪影響とは、人権の侵害や環境の破壊のことです。
デューデリジェンスは、悪影響を見つけ、防ぎ、止めるための一連の手続きです。CSDDDは、その手順を条文で定めています。
欧州委員会は2025年2月26日、負担を減らす一連の法案を出しました。これがオムニバス(簡素化パッケージ)です。まず、適用の時期を延ばす指令(EU)2025/794が、2025年4月16日にEU官報に載りました。中身を改める部分は、指令(EU)2026/470として成立しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何が | 対象の縮小、調査の範囲の絞り込み、移行計画の義務の削除、民事責任と罰金の見直しなど |
| いつ成立 | 2026年2月24日に採択、2月26日にEU官報に掲載、3月18日に発効 |
| いつから | 2029年7月26日から、すべての対象企業に適用。年次の声明は2030年1月1日以後に始まる年度から |
| 誰に | EUの会社は従業員5,000人超かつ世界の純売上高15億ユーロ超。EU域外の会社はEU域内の純売上高15億ユーロ超 |
| 罰金 | 上限は世界の純売上高の3% |
指令は、加盟国に向けた法律です。会社に直接かかるのは、各国が作る国内法です。加盟国は、2028年7月26日までに国内法を作って公表します。
対象は、EUの法律で作られた会社と、EU域外の国の法律で作られた会社に分かれます。域外の会社には、従業員数の条件がありません。
| 区分 | 条件(いずれかを満たす) |
|---|---|
| EUの会社 | 直近の年度に、平均従業員5,000人超かつ世界の純売上高15億ユーロ超 |
| EUの最終親会社 | 単体では届かないが、グループとして上の基準に届く |
| EUのフランチャイズなど | EUでのロイヤルティ(使用料)が7,500万ユーロ超、かつ世界の純売上高2億7,500万ユーロ超 |
| 域外の会社 | 直近の年度の前の年度に、EU域内の純売上高15億ユーロ超 |
| 域外の最終親会社 | 単体では届かないが、グループの連結で上の基準に届く |
| 域外のフランチャイズなど | EUでのロイヤルティが7,500万ユーロ超、かつEU域内の純売上高2億7,500万ユーロ超 |
| 対象外 | 投資ファンド(AIFとUCITS)。中小企業は基準に届かないため対象外 |
条件は、2年続けて満たしたときに初めて適用されます。直近の2年とも満たさなくなると、対象から外れます。
従業員数は、短時間で働く社員をフルタイムに換算して数えます。派遣社員なども、一定の条件で数に入ります。
純売上高は、会計指令の定義によります。国際会計基準を使う会社と域外の会社は、自社の会計の枠組みでの収益で判定します。
改正前の基準は、従業員1,000人超かつ純売上高4.5億ユーロ超でした。フランチャイズなどの基準も、ロイヤルティ2,250万ユーロ超、売上8,000万ユーロ超から上がりました。
最終親会社が株式の保有を主な事業とし、グループの経営の判断をしない場合は、免除を受けられます。条件は、EU域内の子会社1社を指名し、義務を代わりに果たさせることです。免除は監督当局に申請します。親会社は、指名した子会社と連帯して責任を負います。
何が悪影響に当たるかは、指令の付属書が国際条約を挙げて定めています。第1部は人権、第2部は環境です。
| 区分 | 主な項目 |
|---|---|
| 人権(第1部第1節、16項目) | 生命の権利、拷問の禁止、公正な労働条件と賃金、児童労働と強制労働の禁止、結社の自由、差別の禁止、土地への権利など |
| 環境(第2部) | 生物多様性条約、ワシントン条約、水俣条約(水銀)、POPs条約(残留性有機汚染物質)、バーゼル条約(有害廃棄物)など |
児童労働の禁止では、義務教育を終える年齢より下の子どもを雇うことを禁じます。その年齢は、どの場合も15歳を下回りません(現地の法律による例外があります)。
取引先の範囲は「活動の連鎖」と呼ばれます。上流は、製品やサービスに関わる取引先の活動です。設計、原料の採掘と調達、製造、輸送、保管、供給が入ります。
下流は、自社のために製品の流通、輸送、保管をする取引先の活動だけです。サービスの下流は入りません。銀行や保険などの金融機関は、上流の取引先だけが対象です。
指令の第5条は、デューデリジェンスの中身を8つの行動として定めています。オムニバスで、いくつかの行動の範囲が狭まりました。
| 行動(条文) | 求められること |
|---|---|
| 方針への組み込み(第7条) | デューデリジェンスの方針と行動規範を作り、社内の仕組みに組み込む。少なくとも24か月ごとに見直す |
| 悪影響の特定と評価(第8条) | まず手に入る情報だけで、影響が起きやすく重い分野を洗い出す。その分野を詳しく評価する |
| 優先順位(第9条) | すべてに同時に対応できなければ、重さと起きやすさで順位を付ける |
| 防止と停止(第10条・第11条) | 行動計画、取引先からの契約上の保証、設備への投資、調達の慣行の見直し、中小企業への支援など |
| 是正(第12条) | 自社が引き起こした悪影響は、自社が是正する |
| 関係者との対話(第13条) | 特定、行動計画づくり、是正の各段階で、直接影響を受ける人や労働組合などと協議する |
| 苦情と通報の仕組み(第14条) | 影響を受ける人や労働組合などが苦情を出せる手続きと、誰でも通報できる窓口を設ける |
| 効果の確認(第15条) | 取り組みの効果を評価する。間隔は少なくとも5年ごと(改正前は12か月ごと) |
| 公表(第16条) | 年次の声明をウェブサイトで公表する |
取り組みの記録は、証拠を含めて少なくとも5年保存します。
洗い出しの段階では、原則として取引先に情報を求めません。詳しい評価で取引先に情報を求めるのは、必要な場合だけです。
従業員5,000人未満の取引先には、ほかの方法で情報を得られない場合に限って求めます。同じ程度の分野が複数あれば、直接の取引先の分野を先に評価できます。
防止や停止ができないときの最後の手段も改められました。会社は、その取引先との新しい取引や延長を控えます。契約の準拠法が認めれば、取引を一時停止します。そのうえで、強化した行動計画を作って実行します。
改正前の条文にあった「取引の終了」は、新しい条文から外れました。停止による悪影響が明らかに重いと見込まれる場合は、停止は求められません。
関係者の定義も狭まりました。現在は、社員や取引先の社員、その労働組合、直接影響を受ける個人や地域社会などです。
改正前の第22条は、気候変動の移行計画を作り、実行することを求めていました。移行計画は、事業の戦略を1.5℃の目標と合わせるための計画です。
改正前の計画には、2030年から2050年まで5年ごとの目標が必要でした。温室効果ガスのスコープ1〜3の削減目標も含みます。スコープ3は、取引先など自社の外での排出です。
見直しの指令は、第22条を削除しました。指令の前文は、負担が釣り合わず、法的な不確かさを生むおそれがあることを理由に挙げています。監督当局が移行計画を監督する規定と、移行計画の手引きを作る規定も消えました。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)にも、移行計画を報告する規定があります。改正前の第22条は、CSRDで移行計画を報告すれば義務を果たしたとみなしていました。見直しの指令は、CSRDのこの規定を削っていません。
加盟国は、監督当局を指定します。監督当局は、情報の提出を命じ、調査し、違反の停止を命じ、罰金を科せます。
| 論点 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 罰金の上限 | 世界の純売上高の5%以上に設定 | 世界の純売上高の3%にそろえる |
| 罰金の決め方 | 世界の純売上高に基づいて決める | この規定を削除。欧州委員会が額の決め方の手引きを出す |
| グループの場合 | 最終親会社の連結売上を考慮 | 最終親会社の連結の世界売上の3% |
| 民事責任の要件 | EU共通の要件を条文で定めた | 削除。各国の法律による |
| 損害の賠償 | 完全な賠償を受ける権利 | 国内法で責任を負う場合に、完全な賠償を受ける権利を保障 |
| 団体による訴え | 労働組合やNGO(非政府組織)に訴えを託せる条件を設ける | この義務を削除 |
| 他国の法律が使われる場合 | 国内法を優先して適用させる | この義務を削除 |
罰金の基準となる売上は、罰金を科す決定の前の年度の数字です。罰金を期限までに払わなければ、会社の名前と違反の中身が公表されます。罰金の決定は公表され、少なくとも5年間見られる状態に置かれます。
民事責任でも、残った規定があります。訴えの期限は少なくとも5年です。裁判所は、会社に証拠の開示を命じられます。懲罰的な賠償など、損害を超える賠償は認めません。
順位を付けたうえで重さの低い悪影響に手が回らなかった場合、そのことだけでは罰金の対象になりません。強化した行動計画が成功すると見込める間は、取引を続けても罰金や民事責任の対象になりません。
当初の指令は、会社の規模に応じて3段階で適用する仕組みでした。見直しの指令は、段階をなくして日付を1つにそろえました。
| 対象 | 当初の指令 | 見直し後 |
|---|---|---|
| 従業員5,000人超・売上15億ユーロ超(域外は域内売上15億ユーロ超) | 発効から3年後に適用 | 2029年7月26日から適用 |
| 従業員3,000人超・売上9億ユーロ超(域外は域内売上9億ユーロ超) | 発効から4年後に適用 | 基準に届かないため対象外 |
| そのほかの対象企業 | 発効から5年後に適用 | 基準に届かなければ対象外 |
| 年次の声明(第16条) | 2028年か2029年の1月1日以後に始まる年度から | 2030年1月1日以後に始まる年度から |
国内法の期限は、当初は発効から2年後でした。2025年の指令(EU)2025/794で2027年7月26日に延び、見直しの指令で2028年7月26日になりました。
見直しの指令の前文(第46項)は、手引きの期限から適用までの2年を、会社が手引きを取り入れる期間と位置づけています。
手引きは2段階で出ます。2027年7月26日までに、手順の進め方、リスクの要因の評価、使えるデータと道具の手引きを出します。2028年7月26日までに、情報の共有の仕方と、関係者向けの情報を出します。業種別の手引きには、期限がありません。
日本企業がCSDDDに関わる道は、主に3つあります。
| 関わり方 | 条件 | 主な義務 |
|---|---|---|
| 日本の会社が域外の会社として対象 | EU域内の純売上高が15億ユーロ超(グループの連結を含む)。2年続けて満たす | デューデリジェンスのすべて。EU域内に代理人を置く |
| EUの子会社が対象 | 子会社が単体で、従業員5,000人超かつ世界の純売上高15億ユーロ超 | 子会社としてのデューデリジェンス |
| 取引先として求めを受ける | 対象企業の活動の連鎖に入っている | 法律上の義務はない。契約や行動規範を通じて求められる |
域外の会社は、EU域内に代理人を指名します。代理人は、監督当局からの連絡を受け、協力する役割です。代理人の連絡先は監督当局に届け出ます。
域外の会社を監督する当局は、支店がある国の当局です。支店がない場合や複数の国にある場合は、EU域内の売上がいちばん多い国の当局が担当します。監督当局の欧州のネットワークは、対象となる域外の会社の参考の一覧を公表します。
取引先として受ける求めには、条文で定めた歯止めがあります。取引先は、営業秘密を開示する義務を負いません。ただし、取引先の名前や、悪影響の特定に欠かせない情報は別です。
取引先が中小企業のとき、対象企業は契約の条件を公正で差別のないものにします。中小企業の点検を第三者に頼む場合、その費用は対象企業が負担します。
| 制度 | CSDDDとの関係 |
|---|---|
| CSRD(EUのサステナビリティ報告) | CSRDで報告する会社は、CSDDDの年次の声明を出さなくてよい。移行計画の報告の規定はCSRDの側にある |
| EUのほかの法律 | 同じ目的で、より広いか細かい義務を定める法律があれば、ぶつかる範囲でその法律が優先する |
| 各国の法律 | グループでの対応、特定と評価、優先順位、防止と停止、苦情の仕組み、効果の確認、公表は、各国が独自に変えられない |
| 日本の政府のガイドライン | 2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が政府のガイドラインとして決定された |
各国が独自に変えられない項目は、見直しで広がりました。改正前は、特定と評価、防止、停止の一部の条文だけでした。
ただし加盟国は、特定の製品、サービス、状況を対象にした、より細かい義務を設けることはできます。
CSRDの見直しでは、取引先の中小の会社に求められる情報に上限が設けられました。この上限は、デューデリジェンスのための依頼にはかかりません。
Q. 日本の親会社の従業員は2,000人ですが、EU域内の売上は16億ユーロあります。対象になりますか。
A. 域外の会社の条件は、EU域内の純売上高だけです。従業員数の条件はありません。直近の年度の前の年度に15億ユーロを超え、それが2年続けば対象です。
Q. 2027年から準備を始めればよいのですか。
A. 国内法の適用は2029年7月26日からです。年次の声明は、2030年1月1日以後に始まる年度から出します。いつ準備を始めるかは、指令は定めていません。
Q. 取引先のすべてを調べる必要がありますか。
A. 条文は、すべての悪影響を見つけることまでは求めていません。前文によると、適切な措置をとった会社は、見つからなかった影響で罰せられません。
Q. 移行計画を作らなくてよくなったのですか。
A. CSDDDの移行計画の義務は削除されました。CSRDの対象の会社には、CSRDの側の報告の規定がかかります。
Q. 業界団体の取り組みに参加すれば、義務を果たしたことになりますか。
A. 業界の取り組みは、情報を得る手段や協議の場として使えます。ただし、参加していても国内法に基づく責任を問われることがあります。自社の社員との協議は、業界の取り組みでは代えられません。
Q. 日本の取引先として、EUの顧客から詳しい質問票が届きました。答える義務はありますか。
A. CSDDDの義務を負うのは対象企業です。取引先に直接の義務はありません。対象企業は、必要な情報だけを求めることになっています。
| 予定 | 状況 |
|---|---|
| 欧州委員会の手引き | 主な手引きの期限は2027年7月26日。中身は未定 |
| 任意のひな形の契約条項 | 手引きの期限は2027年7月26日 |
| 各国の国内法 | 期限は2028年7月26日。罰金の額や民事責任の細部は国ごとに決まる |
| 年次の声明の中身 | 委任法令の期限は2029年3月31日。中身は未定 |
| 指令の見直し | 欧州委員会が2031年7月26日までに報告し、その後は5年ごと |
2031年の見直しでは、対象を広げるかどうかを調べます。売上4.5億ユーロ超・従業員1,000人超の会社と、リスクの高い業種を加えるかが論点です。
金融機関の融資や投資に特化した義務を検討する報告の規定は、見直しの指令で削除されました。