更新日 2026年11月1日

制度の解説|排出量取引

EUのCBAM(炭素国境調整措置)の本格適用

CBAM(炭素国境調整措置)は、EUに入る鉄鋼やセメントなどに、製造時の温室効果ガスに応じた負担を求める仕組みです。2026年1月1日に、報告だけの移行期間が終わり、本格適用が始まりました。輸入者の義務と、日本の製造者が求められるデータを、欧州委員会などの公式資料で整理します。

制度の解説CBAM

概要

CBAMの義務を負うのは、EUの輸入者です。輸入した対象品の埋め込み排出量に見合う枚数の「CBAM証書」を、毎年納めます。埋め込み排出量とは、その製品をつくるときに出た温室効果ガスの量です。

証書の価格は、EU ETS(EUの排出量取引制度)の排出枠の価格に連動します。EUの工場が払う炭素の費用と、輸入品の費用をそろえるためです。

項目内容
根拠規則(EU)2023/956。規則(EU)2025/2083(2025年10月8日)で簡素化
移行期間2023年10月1日〜2025年12月31日。四半期ごとの報告だけで、支払いはなし
本格適用2026年1月1日から。年1回の申告と証書の納付が始まった
義務を負う人EUの輸入者、または間接通関代理人(輸入者の名で通関せず自分の名で手続きする代理人)
日本の会社直接の義務はない。輸入者から排出量のデータを求められる

欧州委員会は2025年12月に、計算方法や既定値を定める実施規則をまとめて採択しました。同じ月に、対象を川下製品に広げる改正案も出しています。

対象になる品目と輸入者

対象は、品目のCNコードで決まります。CNコードは、EUが使う8桁の品目番号です。上6桁は、世界共通のHSコード(輸出入の品目番号)と同じです。規則の附属書Iに4〜6桁で書かれている場合、その数字で始まる8桁のコードがすべて入ります。

分野主なCNコード数える排出
セメント2523 10 00(クリンカー)、2523 21 00、2523 29 00、2523 30 00、2523 90 00、焼成したカオリン質粘土(2507 00 80のうちTARIC 2507 00 80 80)直接と間接
鉄鋼2601 12 00(焼結鉱など)、7201〜7229の多く、7301〜7311、7318(ねじ・ボルトなど)、7326直接のみ(焼結鉱は間接も)
アルミニウム7601、7603〜7608、7609 00 00、7610、7611 00 00、7612、7613 00 00、7614、7616直接のみ
肥料2808 00 00(硝酸)、2814(アンモニア)、2834 21 00、3102、3105(3105 60 00を除く)直接と間接
水素2804 10 00直接のみ
電力附属書Iに記載電力用の別の計算

鉄鋼の7201〜7229には、対象外のコードもあります。自社品のコードは、附属書Iの表と1つずつ照らし合わせる必要があります。

量の基準は、年50トンです。この基準に届かない輸入者は、CBAMの義務を免除されます。

判定の項目基準
数える単位同じ輸入者が1暦年に輸入した対象品の正味質量の合計。CNコードをまたいで合算
免除の条件合計が50トンを超えないこと。通関申告で免除を示す
年の途中で超えた場合その年の全量が対象。超える前に輸入した分も含む
基準の対象外水素と電力。量にかかわらず認定が必要
基準の見直し免除される排出が全体の1%以下になるよう、欧州委員会が毎年確かめる
国による除外アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイスの原産品

欧州委員会の改正案の説明では、50トンの基準で約18万2,000の輸入者が対象から外れるとしています。

輸入者に求められること

  1. 認定申告者になる 設立した加盟国のNCA(CBAMを担当する国の当局)に、CBAM登録簿から申請します。認定申告者でない人の輸入を、税関は認めません。
  2. 認定の要件 税関、税、市場の不正、CBAMの決まりへの重大な違反や繰り返しの違反がないことです。財務と運営の能力と、その国での設立も求められます。EORI番号(EUの税関で使う事業者番号)も必要です。
  3. 年次の申告 前年の輸入分を、毎年9月30日までにCBAM登録簿で申告します。数量、埋め込み排出量、無償割当の調整、外国で払った炭素価格を書きます。
  4. 証書を買う 共通中央プラットフォームで、2027年2月1日から買えます。2027年からは、年初からの輸入分の排出量の50%以上を、四半期ごとに口座に持つ必要があります。
  5. 証書を納める 申告と同じ9月30日までに、申告した枚数を納めます。残った証書は、加盟国に買い戻してもらえる場合があります。
  6. 責任を負う 申告の中身の責任は、認定申告者が負います。検証報告の誤りで枚数が変わると、罰則を受けることがあります。

証書は、ほかの人に譲ったり売ったりできません。同じグループの会社でも同じです。

納める枚数は、次の式で決まります。埋め込み排出量から、無償割当の調整と、原産国で実際に払った炭素価格の分を引きます。結果がマイナスなら、その品目は0枚です。マイナス分を、ほかの品目と相殺することはできません。

2026年の輸入分証書の価格(CO2 1トンあたり)公表日
1〜3月75.36ユーロ2026年4月7日
4〜6月75.28ユーロ2026年7月6日
7〜9月82.32ユーロ2026年10月5日
10〜12月未公表2027年1月4日の予定

2026年分は、輸入した四半期の価格で数えます。価格は、EU ETSの排出枠のオークション価格の平均です。2027年からは、週ごとの平均に変わります。

埋め込み排出量の算定

算定の方法は、実施規則(EU)2025/2547が定めています。計算は、8桁のCNコードごとに行います。同じCNコードの製品は、1つの工場の中で1つの生産工程として扱います。

区分中身
直接排出製造工程で出る排出。工場で使う熱や冷熱をつくるときの排出も入る。熱を工場の外でつくった場合も直接排出に数える
間接排出製造で使った電力の発電に伴う排出。電力量に電力の排出係数を掛けて求める
前駆物質原料のうち、それ自体がCBAMの対象品であるもの。例はセメントの原料のクリンカー

間接排出を数えるのは、セメントと肥料と焼結鉱だけです。鉄鋼、アルミニウム、水素は、直接排出だけを数えます。

前駆物質を使う製品は「複合品」と呼ばれます。複合品では、前駆物質の埋め込み排出量を足します。前駆物質を少量しか使わない場合でも、省く基準はありません。EUでつくられた前駆物質は0と数えますが、使った量は報告します。

鉄鋼製品では、圧延、めっき、線引きなどの加工を計算に入れます。切断、溶接、仕上げは入れません。前駆物質の質量は、切断する前の量で数えます。

報告期間は、製品をつくった暦年です。実際の製造時期の証拠がなければ、輸入した年をつくった年とみなします。ライフサイクル評価のデータベースにある排出係数は使えません。

既定値

実測して検証した値がないときは、既定値を使えます。既定値は、実施規則(EU)2025/2621の附属書Iにあり、国ごと・年ごとに決まっています。2026年7月の訂正規則(EU)2026/1740で直されました。電力には、この既定値は使いません。

表に国や品目がない場合は、「その他の国と地域」の値を使います。この値は、排出原単位が高い上位10の輸出国の平均です。

輸入の年既定値への上乗せ
2026年10%
2027年20%
2028年以降30%
肥料(2026年以降)1%

欧州委員会は、上乗せは排出量を少なく見積もらないためだと説明しています。そのうえで、多くの場合は実測値のほうが輸入者に有利になるとしています。

製造者は、前駆物質だけを既定値にし、自社の工程は実測値にすることもできます。前駆物質の生産国が分からない場合は、同じ規則の附属書IVの値を使います。

検証

2026年1月1日以降の輸入品で実測値を使うには、認定を受けた検証機関の検証が必要です。検証機関を認定するのは、EU加盟国の国家認定機関です。EUの外の検証会社も申請できます。

  1. 検証機関は、ISO 14065とISO 17029に沿う必要があります。認定の有効期間は5年です。
  2. 初めての検証では、原則として工場を実際に訪問します。2年目からは、条件を満たせば、オンラインでの訪問や訪問の省略ができます。
  3. 検証報告は英語で出します。責任者の検証員は、英語で意思疎通できる必要があります。
  4. 最初の認定は2026年9月ごろ、最初の検証報告は2027年の初めに出る見込みです。

日本の輸出企業に求められるデータ

日本の製造者は、EUの輸入者から排出量のデータを求められます。EUへ直接輸出していない場合も同じです。顧客がCBAMの対象品をつくってEUへ出す場合や、商社がEUへ売る場合も、データを求められます。

準備するもの中身
品目の確認自社品のCNコードを、規則の附属書Iの表と照らし合わせる
監視計画工場の範囲、生産工程、測る項目と方法を書いた手順書。英語で作る
直接排出燃料や原料の量と排出係数から計算するか、煙突で濃度と流量を測る
熱の流れ蒸気などの熱を、どの生産工程で使ったか
電力生産工程ごとの電力量と、電力の排出係数(セメント・肥料など)
前駆物質仕入れ先の工場、報告期間、1トンあたりの直接・間接の排出量、生産ルート、検証報告
無償割当の調整EUにあればもらえる無償割当を計算するためのデータ
自国の炭素価格支払った炭素価格と、それを生産工程に割り振る情報
品目ごとの項目セメントのクリンカーの含有量、混合肥料の窒素の形態など
記録の保管監視の記録と根拠の書類を、報告期間の後6年以上

データの渡し方は2つあります。1つは、CBAM登録簿の製造者向けの画面に登録する方法です。欧州委員会は、この方法を勧めています。もう1つは、委員会の表計算の様式を使って、輸入者ごとに送る方法です。

登録した場合、輸入者が見るのは排出報告の要約だけです。登録しない場合は、排出報告の全体と検証報告を輸入者に渡すことになります。2027年は、製造者の登録は義務ではありません。

電力の排出係数は、系統の電力なら既定値の規則の附属書IIの値を使います。自家発電や、特定の発電所との電力購入契約の場合は、別の規則があります。

適用の時期と経過措置

時期内容
2023年10月〜2025年12月移行期間。四半期ごとの報告だけ
2026年1月1日本格適用。2026年の輸入分から証書の対象
2026年証書の価格は四半期の平均。既定値の上乗せは10%
2027年2月1日証書の販売が始まる。2026年分もここから買う
2027年四半期ごとに50%以上を持つ義務が始まる。価格は週の平均。上乗せは20%
2027年9月30日2026年分の最初の申告と納付の期限
2028年上乗せが30%に。製造者どうしで前駆物質のデータを登録簿で共有できる
2026〜2033年EU ETSの無償割当が減る分に合わせて、CBAMの負担が増える
2034年無償割当がなくなり、埋め込み排出量の全量が証書の対象

無償割当の調整には、年ごとのCBAM係数を使います。欧州委員会のガイダンスの計算例では、2026年は97.5%、2027年は95.0%です。

2025年につくり、2026年に輸入した品も対象です。2026年の輸入分は、報告期間が2026年と決められています。2026年より前の実測値はないため、既定値を使うことになります。

手続きと期限

2026年製造者が監視計画を作り、排出量のデータを取る
2026年9月ごろ国家認定機関が、最初の検証機関を認定する見込み
2027年初め検証機関が工場を訪れ、検証報告を出す
2027年2月1日認定申告者が証書を買い始める
2027年9月30日認定申告者が2026年分を申告し、証書を納める
欧州委員会「CBAM Questions and Answers」(2026年10月15日更新)から作成

欧州委員会は、実測値を使いたい輸入者に、まず製造者へ連絡するよう求めています。製造者には、2026年のうちに監視と計算を始めるよう求めています。申告の提出の画面は、2027年に開く予定です。

ほかの制度との関係

  1. EU ETS CBAMは、EU ETSと対になる仕組みです。EUの工場がもらう無償割当は、2026年から2034年にかけて減ります。CBAMは、その分だけ少しずつ負担を増やします。
  2. 外国の炭素価格 原産国で実際に払った炭素価格は、差し引けます。払い戻しや無償割当があれば、その分は差し引けません。
  3. 製品のカーボンフットプリント CBAMの算定は、EU ETSの決まりに沿っています。GHGプロトコルやISO 14067とは違うところがあります。
  4. 除外される国 EU ETSを使う国や、EU ETSとつながった制度を持つ国の原産品は、対象外です。

外国の炭素価格を差し引く細かい決まりは、まだできていません。欧州委員会は、2026年に実施規則を採択するとしています。国ごとの「既定の炭素価格」を示すことも検討しています。日本で払う炭素価格を差し引けるかは、この規則の中身によります。

実務で迷いやすい点

Q 年50トンに届かなければ、何もしなくてよいですか。
A 認定申告者になる必要はありません。ただし、通関申告で免除を示す必要があります。水素と電力は、量にかかわらず認定が必要です。

Q EU向けとほかの国向けで、排出量を分けて計算できますか。
A できません。生産工程は、同じCNコードの製品すべてで1つとされています。

Q 金属の部品とほかの素材を組み立てた製品は、どう数えますか。
A CNコードが附属書Iにあれば対象です。50トンの判定には、通関申告の正味質量を使います。埋め込み排出量は、金属の部分の分だけで計算します。

Q 仕入れた鋼材の実測値が手に入りません。
A 前駆物質の分だけ既定値を使い、自社の工程は実測値にできます。

Q 検証の会社から、有料の検証を売り込まれました。
A 実測値は、製品をつくった製造者から受け取るものです。欧州委員会は、ほかの人からの申し出は詐欺の可能性が高いと注意しています。

Q グループ会社どうしで、証書を融通できますか。
A できません。証書は、買った認定申告者だけが使えます。

Q ライフサイクル評価の排出係数を使えますか。
A 使えません。

今後の予定

時期予定状態
2026年中外国の炭素価格を差し引く実施規則を採択欧州委員会の予定(2026年10月15日時点)
2027年1月1日見直したCBAMベンチマーク(無償割当の調整の基準値)を適用実施規則の前文にある方針
2027年1月4日2026年10〜12月分の証書の価格を公表予定
2028年1月1日川下製品への拡大を適用改正案。未成立
未定川下製品の品目の数協議中

川下製品への拡大の案は、欧州委員会が2025年12月17日に出しました(COM(2025)989)。鉄鋼やアルミニウムを多く含む180品目を加える案です。

案には、迂回を防ぐ決まりも入っています。既定値を下げるためにサプライチェーンを意図して組み替えることを、迂回の例に加えます。輸入した電力の排出係数の計算も見直し、2026年1月1日以降の輸入に当てはめる案です。

EU理事会は、2026年6月12日に交渉の立場(一般的アプローチ)をまとめました。委員会案に品目を加え、一部を外しています。欧州議会は、2026年9月15日に第1読会の立場を採決しました。そのうえで、理事会との交渉に入っています。

品目の数や適用の日は、交渉の結果で決まります。2026年11月1日の時点で、合意はまだありません。

出典

  1. 欧州委員会「Carbon Border Adjustment Mechanism (CBAM) Questions and Answers」2026年10月15日更新 https://taxation-customs.ec.europa.eu/document/download/013fa763-5dce-4726-a204-69fec04d5ce2_en
  2. 欧州委員会「CBAM definitive regime」 https://taxation-customs.ec.europa.eu/carbon-border-adjustment-mechanism/cbam-definitive-regime_en
  3. 欧州委員会「Price of CBAM certificates」 https://taxation-customs.ec.europa.eu/carbon-border-adjustment-mechanism/price-cbam-certificates_en
  4. 欧州委員会「CBAM Legislation and Guidance」(規則と実施規則の一覧) https://taxation-customs.ec.europa.eu/carbon-border-adjustment-mechanism/cbam-legislation-and-guidance_en
  5. 欧州委員会「Guidance No. 1 - Introduction to CBAM concepts」2026年8月14日 https://taxation-customs.ec.europa.eu/document/download/031abf60-21a9-4822-b258-ac8b111d8358_en
  6. 欧州委員会「Guidance No. 2 - Quick guide for non-EU operators on CBAM implementation」2026年8月14日 https://taxation-customs.ec.europa.eu/document/download/91e1056c-4524-4705-aaa7-e25c1439a87a_en
  7. 欧州委員会「Guidance No. 5a〜5e」(セメント、水素、肥料、鉄鋼、アルミニウムの分野別ガイダンス)2026年8月14日 https://taxation-customs.ec.europa.eu/carbon-border-adjustment-mechanism/cbam-legislation-and-guidance_en
  8. 欧州委員会「CBAM registry and reporting」 https://taxation-customs.ec.europa.eu/carbon-border-adjustment-mechanism/cbam-registry-and-reporting_en
  9. 欧州委員会「Proposal for a Regulation amending Regulation (EU) 2023/956 as regards the extension of its scope to downstream goods and anti-circumvention measures」COM(2025)989、2025年12月17日(EU理事会文書16973/25) https://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-16973-2025-INIT/en/pdf
  10. EU理事会 議長国ノート「General approach」文書10208/26、2026年6月9日 https://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-10208-2026-INIT/en/pdf
  11. EU理事会(経済・財務)議事録案、文書10684/26、2026年6月12日の会合 https://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-10684-2026-INIT/en/pdf
  12. 欧州議会 立法監視「2025/0419(COD)」 https://oeil.europarl.europa.eu/oeil/en/procedure-file?reference=2025/0419(COD)
  13. 欧州議会調査局「CBAM extension to downstream products」2026年7月6日更新 https://eprs.europarl.europa.eu/contents/publications/EPRS/2026/07/EPRS_BRI(2026)789314.html

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