更新日 2026年11月2日

開示の事例|2025年12月期の有価証券報告書

キリンホールディングスのSSBJ開示

キリンホールディングスは、2025年12月期の有価証券報告書をSSBJ基準に準拠して作りました。SSBJ基準は、日本のサステナビリティ開示の基準です。このページでは、何をどの順で書き、どの経過措置を使ったかを、報告書の記載に沿って紹介します。

開示の事例キリンHD

概要

対象の書類は、第187期の有価証券報告書(有報)です。有報は、上場会社が毎年出す事業とお金の報告書です。報告期間は2025年1月1日から12月31日までです。提出日は2026年3月27日です。

有報には、2026年2月20日の改正内閣府令の附則に基づき、SSBJ基準を「早期適用し」たと書かれています。そのうえで、SSBJ基準に「準拠して作成しております」と表明しています。開示は有報の「サステナビリティに関する考え方及び取組」の欄にあります。この欄は、20ページから85ページまで続きます。

有報の欄の中で、別の資料も参照するよう案内しています。会社のサイトに載せた「SSBJ基準に準拠したサステナビリティ関連財務開示-第187期」です。

項目有報の記載
会社キリンホールディングス株式会社
事業年度第187期(2025年1月1日〜2025年12月31日)
提出日2026年3月27日
準拠の表明SSBJ基準を早期適用し、準拠して作成
公表の承認2026年3月27日。情報開示委員会の委員長であるCFOが承認し、社長に報告
参照した資料IFRS S2号の産業別ガイダンス、SASBスタンダード(酒類、清涼飲料、加工食品、バイオテクノロジー・医薬品)

CFOは、財務の責任者を指します。SASBスタンダードは、業種ごとの開示項目を決めた基準です。

欄の構成

欄は5つの節でできています。前の4つは会社全体の話です。5つ目で、重要なテーマを1つずつ書いています。

  1. (1) サステナビリティ関連財務開示の作成方法について:準拠の表明、経過措置、保証、判断と不確実性
  2. (2) ガバナンス:監督と執行の体制、役員のスキル、役員報酬
  3. (3) リスク管理:リスクと機会の選び方と、全社のリスク管理への組み込み
  4. (4) 戦略:ビジネスモデル、計画期間、バリューチェーン
  5. (5) 重要テーマ別:7つのテーマごとの記載

7つのテーマは次のとおりです。アルコールの負の影響、健康長寿社会、アンメットメディカルニーズ、人的資本です。残りは人権、消費者課題、環境(気候変動・自然資本)です。アンメットメディカルニーズは、治療法が十分にない病気への医療の必要を指します。

各テーマの中は、ガバナンス、リスク管理、戦略、戦略-レジリエンス、指標及び目標の順に並びます。健康長寿社会には、レジリエンスの見出しがありません。レジリエンスは、変化に対する戦略の耐性を指します。環境のテーマは61ページから85ページまでです。

ガバナンスとリスク管理で書いていること

監督の責任は、取締役会が負うと書いています。取締役会は、年に1回、CFOからリスクと機会の報告を受けます。業務の執行は、経営企画部の報告をもとに四半期ごとに監督します。

執行の側には、社長の諮問機関が4つあります。下の表は、有報が書く開催の頻度と役割です。

会議開催役割
グループ経営戦略会議原則週次非財務目標と投資計画を審議・決議
グループCSV委員会原則年3回長期の方針や戦略を議論し、取締役会に付議・報告
グループリスク・コンプライアンス委員会原則年2回グループ重要リスクを選び、取締役会に報告
情報開示委員会原則四半期ごと有報で開示するリスクと機会、モニタリング指標を決定

CSVは、社会と共有できる価値の創造を指す会社の経営の考え方です。役員報酬では、株式報酬の一部に非財務の評価を入れています。会長CEOの報酬のうち、非財務評価と結びつく割合は「約6%」と書いています。

リスクと機会は、財務上の影響度と発生可能性の2つの軸で評価します。影響度は、50億円未満、50〜100億円、100億円以上の3段階です。100億円以上は、発生確率を問わず重要とします。50〜100億円は、10年に1回程度起きるものだけを重要とします。

選んだ結果は、グループ全体のリスク管理の流れに組み込みます。サステナビリティのリスクを、ほかのリスクより優先する順位付けはしていないと書いています。

戦略(リスクと機会、シナリオ分析)で書いていること

時間軸は、短期を年度末後1年、中期を2〜3年、長期を4〜10年と決めています。財務的影響の表では、短期は1年後、中期は3年後、長期は10年後の単年度の数字を載せています。

環境のテーマでは、リスクを4つに分けています。気候の物理リスク、気候の移行リスク、自然資本(原料)、自然資本(容器包装)です。物理リスクは、災害や気温の上昇による被害です。移行リスクは、脱炭素に向けた規制や市場の変化による影響です。

気候のシナリオ分析は、グループ全体を対象にしています。使ったシナリオは2つです。

シナリオ前提
シナリオ11.5℃及び2℃の気温上昇。SSP1/RCP2.6
シナリオ34℃の気温上昇。SSP3/RCP8.5

RCPとSSPは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などが使う将来の想定です。分析の時点は、2030年と2050年です。グループの戦略は、シナリオ1を基準にしていると書いています。

分析の結果として、財務影響の試算を表にしています。例えば、農産物の収量減は2050年に4℃シナリオで「約31億円~約122億円」です。洪水による操業停止は「約10億円」です。これは、国内20か所で200年に1回の災害を想定した合計です。

移行リスクへの対応費用も、百万円単位で載せています。当年度は、損益の影響が851百万円、資産の影響が1,996百万円です。合計2,847百万円を、キャッシュフローの影響として記載しています。

レジリエンスの評価では、現時点でビジネスモデルを変える必要はないとしています。自然資本は、TNFD(自然関連の開示の枠組み)のLEAPアプローチで分析しています。

指標と目標(Scope1・2・3)

温室効果ガスの排出量は、Scope1とScope2を開示しています。Scope1は自社の直接の排出です。Scope2は、買った電気や熱を作るときの排出です。数字は82ページにあります。

区分2025年実績(tCO2e)
Scope1375,414
Scope2(ロケーション基準)343,860
Scope2(マーケット基準)190,705
Scope3開示していない(経過措置を使用)

tCO2eは、二酸化炭素に換算したトン数です。ロケーション基準は、地域の平均の係数で計算した量です。マーケット基準は、電力会社ごとの係数や証書を反映した量です。

集計の範囲は、GHGプロトコルの経営支配力アプローチです。GHGプロトコルは、排出量を算定する国際基準です。オペレーションを管理する事業体の排出は、持分に関係なく100%で含めます。

測り方は「GHGプロトコル(2004年)」に従い、活動量に排出係数をかけています。排出を直接測ってはいないため、見積りの方法で測ると書いています。地球温暖化係数は、IPCCの第6次評価報告書の値です。

目標は、Scope1+2の削減率で示しています。2030年に2019年比で50%削減、2050年にネットゼロです。当年度の実績は「32%」です。この目標の範囲は、SBT認定の事業範囲です。SBTは、科学的根拠に基づく削減目標の国際的な認定です。SSBJ基準の集計範囲とは異なると、有報に書いています。

ほかの指標も載せています。再生可能エネルギー比率は18%です。エネルギー総消費量は10,147,536GJです。用水使用量は40,443千m3です。

使った経過措置・救済措置

有報の(1)の節で、使った措置と根拠の条文を書いています。

措置有報の記載根拠として書いた条文
比較情報の省略比較情報を開示していない適用基準第93項、一般基準第42項、気候基準第102項
Scope3の省略Scope3排出量を開示していない。準備ができ次第開示する予定気候基準第103項(2)

比較情報は、前の年度の数字を並べる情報です。どちらの措置も、適用の最初の年度に使えるものです。

気候だけを開示する措置は、有報に使ったとの記載がありません。開示は気候を含む7つのテーマに及んでいます。二段階開示(有報の後に訂正報告書で出す方法)を使うとの記載もありません。

第三者保証

有報には、一部の項目について第三者保証を受けたと書いています。範囲は「ガバナンス、リスク管理、及びScope1・2排出量、並びに一部の指標」です。水準は限定的保証です。限定的保証は、合理的保証より手続きの範囲が狭い保証です。

保証した者は、KPMGあずさサステナビリティ株式会社です。保証の詳しい内容は、会社のサイトの別資料を参照するよう書いています。

会社の発表では、2026年度以降に保証の範囲を広げる予定としています。

作成の手順・内部統制

リスクと機会の選定から開示までの手順は、社内の規程で決めています。規程は2つあります。

  1. 「SSBJ基準に基づくサステナビリティ関連財務開示方針」
  2. 「SSBJ基準に基づくサステナビリティ関連財務開示実務指針」

この社内体制は、経営監査部による内部監査の対象になっていると書いています。

重要テーマのリスクと機会は、毎年、情報開示委員会で見直しの要否を確かめます。見直しが要る場合は、テーマごとの会議体で中身を見直します。最終的な開示の内容は、情報開示委員会が決めて社長に報告します。

判断のうち最も影響が大きいものとして、リスクと機会の識別を挙げています。測定の不確実性が最も大きいものとして、シナリオ分析の財務的影響を挙げています。

出典

  1. キリンホールディングス株式会社「有価証券報告書 第187期(2025年1月1日〜2025年12月31日)」2026年3月27日提出、EDINET書類番号 S100XTVS、「2【サステナビリティに関する考え方及び取組】」20〜85ページ https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WZEK0040.aspx?S100XTVS(PDF:https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100XTVS.pdf)
  2. キリンホールディングス株式会社 ニュースリリース「SSBJ基準に準拠したサステナビリティ関連財務開示を日本企業で初めて2025年度から日本語と英語同時に開始」2026年3月27日 https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2026/0327_01.html
  3. サステナビリティ基準委員会「サステナビリティ開示基準の適用」「一般開示基準」「気候関連開示基準」 https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards.html