更新日 2026年11月2日

開示の事例|2026年3月期の有価証券報告書

日本航空はSSBJ基準を参考に開示 影響の大きさは30億円と300億円で線引き

日本航空は2026年3月期の有価証券報告書(有報)で、気候の開示でSSBJ基準を参考にしています。同じ箇所に「当期においてはSSBJ基準のすべての定めには準拠しておりません」とあります。SSBJ基準の経過措置を使ったとは書いていません。サステナビリティ情報の第三者保証も、有報の欄に記載がありません。

開示の事例日本航空

ISSB基準とSSBJ基準を参考にし、当期は準拠していない

対象の書類は、日本航空株式会社の第77期の有報です。報告期間は2025年4月1日から2026年3月31日まで、提出日は2026年6月22日です。開示は「サステナビリティに関する考え方及び取組」の欄にあり、17ページから29ページまで続きます。

基準との関係は、気候変動の節の冒頭にあります。TCFDの提言には、2021年2月に賛同しました。

そのうえで、「ISSB(注1)基準、およびSSBJ(注2)基準を参考にした情報開示を実施していきます」としています。続く文は「当期においてはSSBJ基準のすべての定めには準拠しておりません」です。

SSBJ基準で書くときは、3つの基準の定めを全部まとめて使います(適用基準第91項)。日本航空の有報には、準拠しているとの表明や、SSBJ基準に準拠する時期は書いていません。

項目有報の記載
会社日本航空株式会社
事業年度第77期(2025年4月1日〜2026年3月31日)
提出日2026年6月22日
基準との関係TCFD、ISSB基準、SSBJ基準を参考にした開示。当期はSSBJ基準のすべての定めには準拠していない
欄の場所17〜29ページ(全214ページ)

影響の大きさは30億円と300億円で線を引く

リスクと機会は、TCFDの分類に沿って表にしています。この表は、2025年7月30日の取締役会で確かめた内容です。リスクと機会は、毎年度見直します。

表の「時期」と「影響」の区分は、次のとおりです。影響は、発生したときの年間の収入または費用の額で分けています。

区分有報の定め
短期2025年度(今の中期経営計画の期間)
中期2026年度〜2030年度
長期2031年度〜2050年度
影響 小30億円未満
影響 中30億円以上300億円未満
影響 大300億円以上

財務影響は大・中・小の区分で示す

リスクの表には、カーボンクレジット、SAF(持続可能な航空燃料)、地上車両、機材、需要、運航などの項目が並びます。項目ごとに、時期と影響を大・中・小で示しています。影響額そのものの数字は、表には載っていません。

シナリオ分析は、2018年に環境省の支援事業に参加して行いました。使ったシナリオは2つで、分析の対象は2030年の社会です。2つのシナリオの社会の姿は、図で示しています。

シナリオ前提
2℃未満RCP2.6。気温上昇を2℃以下に抑える目標の下の、排出量が最も低いシナリオ
4℃未満RCP8.5。2100年の温室効果ガスの排出量が最大になるシナリオ

移行計画(排出を減らしていく道筋の計画)は、1.5℃シナリオを前提にしています。2020年6月の株主総会で、2050年の排出量実質ゼロを目標にしました。

ロードマップは、2026年3月に作った「JALグループ経営ビジョン2035」の中で新しくしています。ロードマップの図には、省燃費機材の比率も載っています。

年度省燃費機材の比率
FY202545%
203067%
2035「84%~」

自然資本では、TNFDのLEAPアプローチで優先地域を選んでいます。国内は北海道、鹿児島、沖縄、東京です。海外はハワイとオーストラリアです。財務上の影響は、今後分析する方針です。

Scope別の当期実績の表は有報の欄に載っていない

有報の欄には、Scope1・2・3の当期の排出量の表と、算定の範囲・方法の説明は載っていません。環境データの結果は、会社のサイトとJALレポートで開示しています。

気候の節にあるCO2排出量の内訳では、航空機からの直接排出が約99%、地上施設や地上車両などが約1%です。

目標は、次のとおりです。

目標有報の記載ページ
2050年CO2排出量実質ゼロ19
2030年度の総排出量2019年度対比10%削減23
2030年度のSAF全搭載燃料の10%をSAFに置き換え。SAFの使用でCO2排出量を5%削減23〜24
2030年度の航空機以外2019年度対比35%減24
FY25(2025年度)スコープ1〔航空〕排出量921万トン未満27

当期の実績の数字は、欄の外の、経営者による分析の節(46ページ)の表にあります。

項目46ページの表の記載
2025年度までの目標「総排出量921万トン未満(2019年度実績)」
2025年度の実績「913万トン※速報値」
2030年度の目標航空機からのCO2排出量のFY2019対比10%削減。「オフセットを含む」と注記

経過措置と第三者保証は、有報の欄に書いていない

有報には、SSBJ基準の経過措置を使ったとの記載がなく、Scope3の省略や比較情報の省略にも触れていません。サステナビリティ情報の第三者保証も、受けたかどうかを含めて欄に記載がありません。一方で、開示のテーマは気候だけでなく、自然資本と人財にも及んでいます。

重要事項は取締役会で審議・決定する

サステナビリティの重要事項は、取締役会で審議し決定します。取締役会に付議する前に、社長が議長のサステナビリティ推進会議で議論します。

その下に、サステナビリティ推進委員会を月次で開いています。委員長の記載は、(1)が「ESG推進部担当役員」、(2)が「サステナビリティ推進部担当役員」です。

取締役会は、気候変動と生物多様性の取り組みについて報告を受けます。2025年度の報告は2回です。GXに特化したGX関係役員会は、2025年度に9回開いています。

役員報酬には、外部のESG評価やCO2排出削減目標などを指標として反映しています。

リスク管理では、リスク管理部が半期ごとにリスクを調べ、評価します。特に重要なものは「優先リスク」とします。優先リスクは、社長が議長のグループリスクマネジメント会議で対応を決めます。

気候や生物多様性などの環境課題は、環境マネジメントシステム(EMS)のPDCAサイクルで管理します。気候のリスクは、移行リスクと物理リスクの両方をグループ全体の体制で管理します。

作成の手順として書いているのは取締役会の関わり方

欄に書いているのは、取締役会の関わり方です。開示を作る手順や、開示のための内部統制の説明は、欄には載っていません。

  1. 気候のリスクと機会の表は、2025年7月30日の取締役会で確かめた内容
  2. TNFDの提言に基づく情報開示は、取締役会で報告・承認される(25ページ)
  3. 2025年度の取締役会の主な活動に「TCFD/TNFDに基づいた気候変動に係る情報開示」がある(67ページ)

サステナビリティ推進会議は、2025年度に4回開きました。TCFDとTNFDの情報開示を議論し、取締役会に計2回報告しました(74ページ)。

人財の節は女性管理職比率31.9%を載せる

人財の節には、2025年度の実績と2030年度の目標を載せています。

指標有報の記載
女性管理職比率2025年度の実績31.9%(目標30%)
時間あたりEBIT2030年度にFY2025対比1.5倍以上(目標)

欄は4つの節で、気候・自然資本・人財を書く

欄は4つの節でできています。1つ目は会社全体の話で、2つ目から4つ目でテーマを1つずつ書いています。

  1. (1) サステナビリティ全般:①ガバナンス、②戦略、③リスク管理、④指標と目標(17〜18ページ)
  2. (2) 気候変動への対応:①ガバナンス、②戦略、③リスク管理、④指標と目標(19〜24ページ)
  3. (3) 自然資本(生物多様性)への対応:①ガバナンス、②戦略、③リスクと影響の管理、④指標と目標(25〜27ページ)
  4. (4) 人財への取り組み:①戦略、②指標と目標(28〜29ページ)

(2)の戦略は、シナリオ分析、移行計画、ロードマップ、リスクと機会の順に小見出しが並びます。

(1)の指標と目標は、数字を会社のサイトに載せていると案内しています。(3)の自然資本の節は、TNFDの提言に沿って書いています。

ほかの事例と比べる

準拠の表明、経過措置、第三者保証などを4社で並べた表があります。

出典

  1. 日本航空株式会社「有価証券報告書 第77期(2025年4月1日〜2026年3月31日)」2026年6月22日提出、EDINET書類番号 S100YFIO、「2【サステナビリティに関する考え方及び取組】」17〜29ページ、ほか46・67・74ページ https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WZEK0040.aspx?S100YFIO(PDF:https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YFIO.pdf)
  2. サステナビリティ基準委員会「サステナビリティ開示基準の適用」 https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards.html